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数分後、手鞠が半兵衛の言いつけ通り幸い厠中でも着替え中でもなかった三成を連れてきた。
「お呼びですか半兵衛様。」
「…手鞠に三味線を教えたのは君らしいね。」
「はい。」
「こ・れ・の・どこが三味線なのか僕に教えてくれるかい?」
隣でまた立ちながらギャギャギャーン!と楽しそうに三味線を弾いている手鞠を指差して聞いた。
「あれは四味線です。」
「しみせん?」
「はい、普通の三味線では秀吉様のお耳に入れるに相応しい迫力の音が出ませんので私が改造しました。
今は更に改造した五味線もあります。」
「…うん、君が楽器の改造に長けていることと名前をつける才能が無いことはわかった。
それで?」
「聞けば手鞠は芸者に習ったとすでに三味線は弾けましたので、これは私の四味線を継がせるしかないと強く感じた次第です。」
「そこはお願いだから何も感じないで欲しかったよ。
勝手に僕の命を妙な楽器の後継者にしないでくれ。」
「ギャギャギャギャー!」
「手鞠おすわり。」
「はい。」
全く、と手鞠の手からその四味線とやらを受け取った。
見れば確かに弦が四本張られており、軽く弾くだけでかなり大きく響く。
これはこれで何かに使えそうだ、と考えだした頭を振り払い、咳払いを一つした。
「…とにかく、楽器の改造はあまりしてはいけないよ。
それから無闇に弾くことも禁止だ。
二人ともいいね?」
「はーい。」
「はい。」
返事はしっかりしている二人をやれやれと見つめ、多少慌ただしかったことで湿気も消えたし、と思い直した。
「じゃあ三成君は下がっても良いよ。
時間を取らせてすまなかったね。」
「………」
「三成君?」
再び見た三成の視線はこの部屋のどこかを見つめている。
自分と手鞠の間のような、室内の無意味な隙間のような箇所を。
「…私もここにいてはいけませんか。」
「え?」
「無礼とは承知の上です、決して邪魔立てはいたしません。」
そんな姿に、ああ、と昔の当人を思い出す。
幼少の頃とは言え三成も以前から豊臣に小姓としていて、その世話役は自分だった。
「…うん良いよ、僕も書を読んでいるだけだから。」
「三成も字の練習する?」
「字か。」
「ああ…君はすごい速筆だからした方が良いかも知れないね…」
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