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確か、と指折り数え用に片手を持ち上げて。
「まず山の向こうにある廃村に野盗がいないか確かめてそれから京の薬売りに僕の薬を注文して帰り道の外れに鎮圧に手間取ってる一揆があるからそれを片付けて最近直した南の橋の強度を確かめて、ついでに城下で本と水菓子を買ってくるっていう、ささやかなおつかいだったのだけど…」
「無理があるだろ。」
さらりと七文字で返された。
「もう少し具体的に頼むよ。」
「そもそもそれで一日ちょいで帰る方が無理があるだろが!」
「君も親切な男だね。」
やれやれ、と誉め言葉かたしなめる言葉か分からないものを投げかけられる。
吐息混じりに頬杖をつき、やわらかな日が射す庭の池を見つめた。
「…出来ない計算じゃない、あの子は足が速いんだ。」
「しかしなあ、さっきの『ついでに』の部分からが普通のおつかいってもんだろう。」
「君に言われなくとも分かっているよ。」
詰め込んでいることくらい。
城の中にもやるべきことは溢れている。
必然的に手鞠を外に出す回数は減り、その内容は非常に多くなる。
「秀吉には聞かんのか。」
「僕が秀吉に悩んでいる姿を見せるはずないだろう。
僕が悩んでいるのを見れば秀吉だって悩むんだ。
彼はそんなことに時間を割くべき人間じゃない。」
やれやれ、と再び肩をすくめて呟いた。
「お前さんは身内にべったべたに甘いくせして、頼らねえのが悪い癖だな。
あー面倒くせえ。」
「…だから手鞠がいるんだ。」
「…ああ、で、頼りすぎたと。」
「君も腹の立つ言い方をするね。」
「怒りなさんな、事実だろうよ。
じ・じ・つ。」
「………」
「いだだだだ髪を引っ………す、すまんすまん!」
左手に黒田の前髪、右手に間接剣を握り、顔に黒い影を落とした半兵衛を見て今更ながら黒田が失言に気がついた。
「わ、悪かった半兵衛!
小生が悪かった!」
「悪かったで済むなら警察も拷問係も死刑執行人もいらないんだよ。」
「いやそこまで罪はなかっただろ!」
「…あの子は。」
「あ?」
痛々しいほど引っ張っていた髪をふい、と離し、振り上げた間接剣から力を抜いた。
遠くを見るような、近くを見るような。
「…あの子は、僕の時間を増やそうとしているんだ。」
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