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「よう、三成いー!」
「…何をしにきた貴様あ!」
ひょっこりと陽気に顔を出したのは黒田。
それを視界に入れた瞬間、心無しか三成の瞳が鋭くなった。
「何だ何だ、飲まず食わずのお前さんを心配しにきたってのによ。」
「貴様からそのような情けは無用だ。」
「そうかい、飯でも食いに行こうかと思ったんだが…」
「貴様と同じ釜の飯を私が食うと思うのか?
さっさと去れ、どこへでも行け」
「…ならしょうがねえなあ。
じゃあ行こうぜお二人さん。」
「うむ。」
「おー。」
「何だと!?」
勢いよくこちらへ振り返った三成の首のあまりの角度に多少たじろいだ。
「貴様が刑部と手鞠と飯を食うだと…!?」
「何かいけないか?」
「私と相反する貴様が私の友と同席するなど侮辱以外の何物でもない!
そんなことは断じて許可しない!」
「…これが家康相手であれば言いくるめられるものを。」
「だから家康の来ない場所で稽古してたんだ。」
「お前達もだ、刑部!手鞠!
このような奴と飯を食うな!」
「しかしな三成、我はこの身ゆえ食事は徹底せねばならぬ。
生憎昼げの部屋は皆同じ、仕方なし仕方なし。」
「私も三食ちゃんと取るように半兵衛に言われてるもの。」
「くっ…!」
フルフルと小刻みに震える三成の右手が、やがて思いきったように光速で刀を鞘にしまった。
「…ならば私も行く!
友を貴様に汚されるよりは数倍ましだ!」
「小生を何者だと思ってやがる!」
病魔扱いされている黒田と裏腹に、その背後で吉継と手鞠かグッと手を握りしめたことに三成は気がつかなかった。
―――――…
「魚おいしいです。」
「鮎だな。」
「僅かでも残すな手鞠。
好き嫌いは半兵衛様に代わって私が許可しない。」
「何で小生だけ少し離されてるんだよ…」
かなりいがみ合いながら何とか全員でたどり着いた一室にて。
三成と吉継が並び、その正面に座る手鞠と多少離れた所に膳を置かれた黒田。
家康は部下と食事に出たらしい。
「当然だ、私は貴様と食うことを許可していない。」
「許可だなんだよりお前さんはもっと人の輪を広げるだとかだな…」
「貴様まで家康に毒されたか。
そのようなもの秀吉様の作られる世には不要だ。」
「んなことばっかり言いやがって…大体なあ!
小生はこの二人に頼まれたからー」
「三成!暗が煮物の野菜残してる!」
「貴様黒田ああ!!
秀吉様の城で出された物を残すなどおおお!」
「なぜじゃああああ!」
いつもの悲鳴を聞きながら、完全に食事に集中することで余計な騒音を排除する術を身につけた残りの二人だった。
―――――…
「いやご苦労、予想以上の働きよ暗。」
「あーどうせ小生は噛ませ犬だよ。
ったくこんなこと二度と御免…」
「さて、戦まで残すところ五日よ。」
「へ?」
「あと五回よろしくお願いします。」
「…おい死ねってか!?
あいつの暴言と暴力で心身共に死ねってか!?」
「聞こえぬなあー。」
「なあー。」
「おおおおおい!」
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