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「やれ手鞠。
ちと小用を頼まれてはくれぬか。」
「小用?」
朝の仕事が終わった手鞠へ、そう吉継が声をかけた。
相変わらずふわふわと浮く輿に乗った存在を多少見上げながら、とりあえずうなずく。
ならば来やれ、と進み出したその後ろを小走りで追った。
【部下たち】
「どんな小用?」
「三成に飯を食わせる。」
「あー…」
理解したように、しかし複雑そうな表情を浮かべる。
戦が近い今、誰よりも秀吉の戦に燃える男・三成が血気盛んになっているのは城中が知っていた。
大抵そうなると血の滲むような稽古に励みだすことも。
「ああなると時間を惜しみ、飯すら食わなんだ。
あの男は。」
「そうだったね。」
三成とよく会話する部類の手鞠でさえも、一昨日から当人の姿を見ていない。
元来食べることに興味がないので、自然と優勢順位が下がるのは仕方ないにしても。
とりあえず今の状況を、と三成のいる稽古場へ案内された。
「生きてるんだし普通はお腹すくのにね。」
「そうさな。
まあ百聞は何とやらよ、覗きやれ。」
「?
お邪魔しまー…」
「ふん!はあ!!せいやあああ!!だああああ!!でい!!っはあああ!!うおおおおお!!」
「うわー…」
そこには鬼気迫る顔で、残像さえ残りそうな勢いのままあらゆる方向に剣技を繰り出している三成の姿が。
「…普通じゃなかったね。」
「まあある意味では、常だがな。」
確かに、とうなずきながらひっそり引き戸を閉めた。
「あれは言葉通じないと思う。」
「ああ…太閤殿の言葉なら聞くであろうが、今は生憎外しておるでな。
軍師殿はどうだ。」
「半兵衛はー…」
〜朝の回想〜
(全く毎回毎回毎回毎回慶次君は厄介事を僕へ運んでくる悪魔だね、今回は秀吉がわざわざ街まで行かなければならない騒ぎを起こしてくれるし…僕の肺どころか胃まで蝕もうと言うのかな。大体……)
〜終了〜
「…今は頼まない方が良いと思われます。」
「左様か。
ならばわれらだけで策を講じねばなるまい。」
さて、と双方共に頭を動かした。
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