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で、何だかんだと難があったものの食事が出来上がった。
かなり巨大なそれをどうにか平机の真ん中に置くことに成功する。
「ほら手鞠、ちゃんと大机の上座を確認しないと。」
「はい。」
「あまり気にするな半兵衛。
手鞠とてもう大人だ。」
「世間一般ではそうかも知れないけれど、手鞠は僕なんだからもっと一人前になってもらわないと――」
「竹中様。」
会話の折、ふと襖の向こうから名を呼ばれた。
この三人でいるときに自分が先に呼ばれるということは、外交や軍事関連のことのみなので自然と口を閉じる。
「どうかしたかい?」
「今し方お客様が来られまして…」
客?と横の二人に顔を向けるも、どちらもかぶりを振った。
「こんな野分の日に来る非常識な客なんて心当たりが……ああ、あったか…」
「如何致しましょう。」
「丁寧に切り捨ててゴミの日に出しておいてくれ。
さあ僕らは食事にしよう。」
「わーい。」
「え!?
いえしかしもうそこまで来――」
「竹中あああああ!」
どったーんと芝居のような音と共に襖をなぎはらって踏み込んで来てしまったのはあの伊達。
恐らく今最も間が悪い男。
「侵入者が入ったと報せを受けてはいたけど、また君たちかい…。
そう言えばまだ懲りずに城下を遊び回っていたんだったね。」
「Ha!今は挑発に乗らねえでいてやるよ。
前に言い忘れたがテメェらには話が…って仲良く鍋パーリィしてんじゃねぇぇてめえら!」
素晴らしい効果音がつきそうな巨大な鍋が机の真ん中に鎮座していた。
きっと人さえ煮られる、そしてこの軍師ならそれをやる、と想像させるほどに重厚な。
「人の家の食卓事情にまで口出しはされる覚えはないね。
僕の築いた幸せな家庭を侮辱するならまず君の兜についたその触角から教育してあげるよ。」
「触角じゃねぇ!
それからいつの間にんな家庭築きやがった!」
「半兵衛、もう食しても良いのか。」
「もちろんだよ秀吉、けど人参はもう少し後の方が良いだろうけどね。」
「築いていやがった!」
後ろでもくもく食べ始めた二人を後目に…というより、鍋が巨大でもはや手鞠の姿が見えない。
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