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冷たい北風が鋭い音を立てて体の右とも左ともつかない場所を駆け抜けていく。
聞きようによっては口笛のようにも聞こえるので、たびたび手鞠が辺りをきょろきょろ見渡した。
「ふふ、手鞠、これは虎狩笛というんだよ。」
「もがりぶえ?」
「鋭い風が枝や家にぶつかることで生まれる音でね。
寒い日に多く聞こえるんだ。」
そう言い終えた時再び大きく虎狩笛が吹き、無意識に半兵衛が肩を震わせた。
それを見た手鞠があわあわと荷物を持っていない片手で襟巻きを外して。
「半兵衛首。
首冷えたら駄目です。」
「そんな、良いよ手鞠。
君だって年頃なんだから暖かくしていないと…わっ」
ばさり、と頭上から何か布が振ってきて肩を包まれた。
手鞠も巻き込まれたらしく、半兵衛のすぐ隣でもがきながら何とか顔を出す。
秀吉が出がけに一枚多く羽織らされた羽織だった。
「秀吉…!
そんな君まで…」
「我はさして寒くもない。
お前たちは体が小さいからすぐに冷えるであろう。」
「…ありがとう秀吉…」
本当は君が大きすぎるんだけど、とはあえて口に出さず、肩に掛かった着物の襟をしっかりと掴んだ。
隣で手鞠も同じことをする。
「ちょうど二人分。」
「そうだね、暖かい。」
「あれ?」
「どうかしたかい?」
ちょろりと通りの向こうを覗いた手鞠が訝しげに目を凝らした。
「何かあそこの角から尖った物が…」
「はは、政宗君じゃあるまいし。」
「Hey慶次、何だって俺の襟をそんなに掴むんだ。」
「き、気のせいじゃないか?(今この雰囲気壊したら殺される殺される殺される…!)」
それから本当に天気が崩れるまで買い物を続けてしまい、横二人羽織の豊臣軍が目撃され。
街の至るところで襟ぐりを掴まれて隠される奥州筆頭が目撃された。
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