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「年の瀬にあんなに料理人の帰省が重なるとはね…身内の不幸なら仕方ないけれど。」
「元より人の抜けるのが多い時期よ。
だが自炊も昔を思い出す、悪くはない。」
「うん、たまにはこういうのも…」
「半兵衛、豆腐は絹ですかー!」
「秀吉は木綿派だと教えただろう手鞠。」
様々な灰色が重なった曇天が広がる。
しかしここは雪には無縁な地域なので、恐らくこれ以上は天気も変わらないだろうと半兵衛が判断したためもう少し通りの奥へ行くことにした。
「野菜と肉と…あと足りない具はあるかい?」
「ここに白滝が売ってるけど三成は白滝嫌いです。」
「三成君は故郷に用があって戻っているから一緒に食べはしないよ。
でも良いことを聞いた。」
確実に今回の食事で使いきるとは思えない量の白滝を持たせてきた半兵衛を見て、手鞠はひっそりと心中で三成に詫びた。
「この辺りになると見知った店も少ないな。」
「ああ、正規の見せ棚の通りを過ぎたからね。
この向こうが漢方薬や薬草、その向こうが遊郭だから、ここ一体の見回りは手鞠の担当だ。」
「綺麗なお姉さん達は元気にしています。」
「うむ、あまり甘えに行くでないぞ。」
―――――――…
「…さて、一つ誤算があるとすれば…」
あれから小一時間ほど買い物をした後、半兵衛が指を顎に添えて悩んでいたことは。
「……少々買いすぎた、かな。」
休憩に入った茶屋の長椅子に、秀吉、半兵衛、手鞠の順に座って一時の歓談を楽しんだ。
椅子の横には大量の収穫物。
紙で包んだ食材、木箱に入れられた薬、果ては人の丈まであるような骨董さえある。
「ずいぶんと買ったな。」
「いざ町にでると存外必要な物を多く思い出してしまって…」
「手鞠を使いに出してはおらんのか。」
「この子はもっぱら僕の身の回りの雑用のために城内を走り回っているから、外まで足を伸ばせなくてね。
何か策を講じておこう。」
十分に休んだ足で立ち上がったとき、茶屋の奥から手鞠が駆けてきた。
「半兵衛、湯飲み戻してきました。」
「ならば戻ろうか、冷えてくる頃合いだ。
壊れ物は僕が持つから、手鞠は食材達、秀吉はこの大きい骨董をお願いするよ。」
「うむ、ではこれと、これと…」
「おわー。」
「秀吉、それは荷物の取っ手じゃなくて手鞠の首根っこだ。」
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