松永久秀 | ナノ


▼ 





1、お絵かき





「うーさーぎ、うーさーぎーはー……こう!」

「ほう。」



ぴっと筆を離せば、そこには筆で描かれた兎の姿。
その兎の周囲には他のあらゆる動物の鳥獣戯画が散らばっている。



「まあまあ兎だな。」

「なかなか兎だよ。
次松ちゃんはうーんと、馬。」

「馬かね。」



筆を渡され、さらさらと走るままに指先を動かす。
あっという間に馬が紙上へ現れた。



「松ちゃんは絵が上手いな。」

「よく見た物はよく描けるものだ。
次は…鹿にするか。」

「私鹿は自信あるよ。
ほら出来た。」

「卿?
これは鹿ではなく、私の馬に角を書き足したものというのだよ。」

「まあそういう説もある。」



などとやっていた時、使いに出ていた風魔が文を携えてやってきた。



「あ、風魔。
鹿描いて鹿。」

「……」



反応を返すよりも先に筆を渡され、仕方なしにそこへ描いた。
途端、二人の視線がそこに固まり、揃ってゆっくり風魔を見つめ、またゆっくり絵へ戻る。



「…ありがとう風魔、鹿が思い出せた。」

「ああ、下がって構わない。」



そう言われたので文を渡し、どろんとどこかへ消えていった。
それを見届けてからまた、そろりそろりと共に視線を戻す。



「…松ちゃんこれどう思う?」

「…いや、稀に料理の苦手な女子がいるだろう。
作るだけで調理場を吹き飛ばしたり、食べた相手が次々と葬られるほどに凶悪な腕を持つそんな女子が。」

「一人はいるよね。」

「ああ。
よもやそのような所業が…」



ぴ、と鹿もどきの描かれた紙を持ち上げた。



「…絵を描くことでも可能だったとはな…」

「…これ足何本ある?」

「見るな、狂うぞ。」




 

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -