松永久秀 | ナノ


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一応主君である信長に背く意をこっそりと持っていたのは単なる興味本位といっても過言ではなく、ちょうどいい誘い話に乗ったまでのことだった。
しかし第六天魔王の地獄耳は早速この企みを聞き取ったらしい。
抜け目がない、と賞賛している今も尚、自分を捕らえようとする敵襲を受けていた。



「松永様!
包囲網が突破されました!
見張りの陣と櫓も壊滅です!」

「信長様は尾張を離れていないのに何故…うわああ!」

「…やれやれ。」



ここまで辿り着いた「それ」に斬られた自兵の悲鳴とは裏腹に、大して驚くでもなく本陣から姿を見せた松永。
周囲の制止など耳にも入れずにそこから数歩歩み出す。



「此度、天明は私へ微笑まなかったらしいな。
上殿はよほど悪運が強いと見える。」



目の前に立つ存在の手に何人の兵がかかったのか、それさえも今の松永にはさしたる問題でもなかった。
相手に今後支障をきたすような怪我がないかさえ頭を過ぎるのだから、よっぽどだと自分でも嘲笑する。



「卿は何が欲しい、物か…それとも私の命か。
ならば欲望のままに奪うと良い。」

「んー。」


今まさに反逆者である自分を捕らえようとするその存在は、真面目そうに悩んだ後、すぐに爽快に笑った。



「どっちもいらないかなあ、松ちゃん。」







散々張り詰めた空気を堪能した安土城を後にしながら、首回りを捻る松永。
切り落とされるくらいなら多少の首の重みなど安いものだ。



「…晴れて放免とは、いやめでたい。」

「良かったね松ちゃん。」

「私を魔王へ送り届けた卿が言うと皮肉にしか聞こえないのだがね。
おかげで貴重な名器を幾つか献上しなければならなくなった。
私の命も無償ではないのだよ。」



すぐ横には自分の首(未切断)を連行したはずの手鞠が笑いながらてっくらてっくら歩いていた。
手鞠に敵襲を受けるのは何も初めてのことではない。
この存在は全国津々浦々の地で気まぐれに助力をするため、奇襲をかけた先に手鞠がいた、というのも最早珍しいことではなくなった。



「…卿は物でつれないのが難点だ。」

「そう言うな松ちゃん。」



自分のように欲望が傾く物が分かり易ければまだこちらへ引き留められるものを。
唯一手鞠の好きな「きれいなお姉さん」とやらも、信長の周囲にいる女性陣には太刀打ちできない。



 

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