松永久秀 | ナノ


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小雨降りしきる、山道の途中。
大地を作り、木を植え、草を生やしたその残り物ばかりを集めたような閑散とした風景の一部に私は座っていた。
日は沈みかけていて、遠くの方はすでに暗闇に包まれている。
これはずいぶん昔の記憶なので、当時小雨に降られていた私が何を考えていたのかは全く覚えていない。

それでも足元には一袋ばかりの収穫と、奪った刀達が転がっていた。



「おじさん、雨好きなの?」



雨粒を弾くような声。
全く気配もなく目の前までやった来たその声に顔を上げると、まだ年端もいかない少女がそこに立っていた。
七つか八つくらいだろう。
足元には何も履いていない、顔には、至極楽しそうな表情を乗せて。



「……私はまだおじさんと呼ばれるような年ではないがね。どこの村から来たのかな」

「雨、嫌いなの?」



少女は子どもらしい純粋さで小首をかしげながら私を見た。
わざとらしくない、多少斜めに下がる傾げ具合。
大きな瞳の中にはまった黒目がゆっくりと回っているような気がして、不思議と私は彼女と目線を合わせていた。



「……何か用かね。こんな雨の日に」

「うん」



少女は水分を含んで重たそうな白い装束を、どうにか持ち上げて片腕を差し出した。



「返してほしい物があるの」

「……何だね?」

「そこの袋の中にある、やつ」



ぴくりと体の動きが止まった。
足元の大きな袋は口が縛ってあり、中を見る事は出来ない。
その中身を言い当てたという事は、「見ていた」のか?



「他のは何でも盗っていいけど、その槍はおじいちゃんから貰ったやつなの。だから返してほしい」



手のひらを空に向け、私へ突き出した。
自分の二倍もある身の丈の男に、ここまで堂々と要求する姿は面白かった。
だから、私も同じように手のひらを差し出す。



「…これは既に私の物だ。何かを得るには、何かを失わなくてはな。君もふさわしい対価を差し出し給え」



そう問えば、少女は傾げていた首を元の角度に戻す。
そして、当然だとでも言うようにこちらを見据えて呟いた。



「もうあげたよ」

「……何?」

「ほら」



少女は視線を合わせたまま、体をひねって自分の背後を指さした。
指の先は下り坂だ。
その道を下った先、少し離れた場所に開かれている小さな村は。

赤々とした炎に包まれている。

それは先程私が部下とともに攻め込み、粗方の金目のものを奪い、私が火を放った村だった。



「……君は、生き残りか」

「うん。でも今は、どうだっていいよ」



そう言って、改めて手を差し出した。



「あの村と、残りの物はおじさんに全部あげたよ。足りる?」



その言い方がいやにさっぱりしていて、当時の私はそれが妙に気に入ったらしく、足元の袋から槍を返してやった。
それは少女には到底身の丈に合っていなかったが、器用に肩に担いで通り過ぎようとしていたので。




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