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「久秀殿、執務でも訴状でも報告でも無い物が届いております。」
「ああ。
そこへ置いておけ。」
返事と共に去っていく気配がしたので、向き合っていた小机に書を置いて振り向くと。
人一人は入れそうな袋がそこに鎮座していた。
一瞬跳ねそうになった肩は危うくおさえた。
「…よもや人など入っていないだろう。」
そう呟きながらそれなりに警戒しつつ開いた袋の口から見えたのは、大量の葉。
試しに一枚取り出すと、ひらがなが一文字だけ書かれている。
並び替えろと。
そういうことか。
よく見れば袋には「風魔使用禁止」と書かれていた。
三好にやらせた。
―――――――――……
「冬の子ー、まぁた文だー。」
「おーう。」
今日はじっちゃんの屋敷の屋根にいたので、比較的低い位置で文を受け取ることが出来た。
今度は小さな巾着だった。
さすがに葉以上にかさばる物もないからなあとそこを開けば、何やら薄く儚いものが詰まっている。
驚いてとっさに指を引き抜けば、それにつられて中身が何枚かひらひらと巾着を飛び出した。
私は見た。
そこにひらがなが一文字ずつ書かれていたことに。
それが魚のウロコだということに。
「うわ飛んでく!
じっちゃ、じっちゃーん!
黒い紙貸してー!!」
三日かけて解読した内容が「そちらはどうだ」をこの上なく長ったらしくした文章であったのは言うまでもない。
「……もう嫌がらせ合戦は終わろうかな。」
「おてま、おまはんにまた文よ。」
「え!?」
「伊達とか書いとるがなぁ。」
一瞬思いきりホッとしてしまった。
普通の紙に普通の文章が書かれているだけで、なぜだか物凄く丁寧な文のように感じる。
「あ、じっちゃんのお酒おいしかったって書いてあるよ。」
「ほー、奥州の竜も若いのにたいしたもんよ。
怪我の塩梅はどや。」
「順調に治ってるって。」
それはよかーと笑っている豪快な声を聞きながら読み進めていくと、なぜいつも喧嘩してるのかという問いの答えが書いてあった。
「へー…伊達のあの刀狙ってる人がいるんだ。」
なんて人だ、あれは伊達じゃなきゃ駄目なのに。
次は伝うよ、と文を返し、ついでに松ちゃんにも返事を書く。
そちらはどうだと聞かれたので、強いて言うなら大好きなお姉さんがあまりいないことを伝えようと思うけれど、さてどう書いたものかと首を傾げ。
そのうち少し指を噛んでみた。
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