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「……久秀殿、文が届いております。」
「ああ。
執務、訴状、報告以外の文なら受け取ろう。」
「……それ以外です。」
「どれ。」
部下が去るのを待ってから、ゆっくり渡された文を開いた。
前述以外、それも宛名を書いていない文など一人しか心当たりが無いので、多少口角を上げながら。
すると開いた文は真っ白で、右端に「基本」とだけ書かれている。
しばらくその書面を眺めていたが、ふと思いついたように近くのろうそくの火へ近づけてみた。
「……確かにあぶり出しは基本だ。」
浮かんできた文字を見つめてそう呟いた。
――――――…
「冬の子ー、文が来てるぞぉ。」
「投げてー。」
「そぉら。」
「えっ。」
まさかの勢いでぽーんと投げられたので、戸惑いながらも受け止める。
すると、それは小さな四角い木の板を重ねて縛った物だった。
「何だこれ…よいしょっ。」
木の板を束ねていた紐を取り去るのと同時にそれがバラバラと散らばる。
一つ手にとってみれば、何やら二文字ほど字が書かれていた。
「…あ!これ文か!
並び替えろ的な!」
松ちゃんはやることが細かいな。
けど面白い趣向だったので軽い気持ちで笑いながら、その場に寝そべって解くことにした。
次の日。
「解 け な !」
全く進まない文字合わせの木の板がそこにあった。
軽い気持ちで始めたはずが、全く終わりが見えないとは予想外。
「うわー何だこれ…松ちゃんよくこんなの考えるな。
あ、松ちゃんって久しぶりに言った。」
一つの板に書かれているのが単語や文節区切りならまだしも、一文字や二文字。
その上紛らわしい言葉をふんだんに混ぜ込んであるため間違えて並べていってもなかなか間違いに気づけない。
それでも一度始めてしまったのと退屈さもあって、またうんうん悩みながらその文と向かい合っていた。
次の日。
「解けたけど…解けたけどおおお!」
屋根の上をゴロゴロと転がりまくって更に叫ぶ。
今朝方ようやく解読を終えたものの。
文の内容は『読み終わったら薪にでもしてくれたまえ』といったことを最大限長ったらしく書いただけの物だった。
「松ちゃんならやりそうだって予想出来たのに…出来たのに…!」
一泡吹かされたことに悶えるのも束の間、これは遊びの皮を被った挑戦状だと理解する。
向こうが木の板ならこっちにも考えが無いことはない。
キッと顔を上げると全速力で森の方へ駆けだした。
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