松永久秀 | ナノ


▼ 




「ここまで来てただ帰るというのも癪に触る。
献上した品々を埋める何かを見つけない限り気は晴れないなあ。」

「いやーそんなことないよ。」

「晴れないなあ。」

「…じゃあ私はもう行――」

「いや卿がそう言ってくれるとは感慨深い、なに道中は長いが退屈な思いはさせまいよ。」

「松ちゃん耳に何か住んでるの。」

「失敬だな。」



それでも松永について行けば確かにほとんど退屈しないので、まあ良いかと大様にうなずいてみせた。



「それは何よりだ。では行くとしよう」



そうしてどこからか立派な馬を連れてきた時、とっさに逃げだそうとした手鞠の首には松永の腕が回っていた。






「いやいやいやいやー!」

「舌を噛むぞ。」



かなり(あるなら)法的速度を超えた速さで森を駿馬が駆け抜ける。
悠然としてそれに乗る松永と、松永の前に座らされている手鞠。

本来なら手鞠が手綱を持って松永に寄りかかなければならないのに、どうみてもその腕の中で丸まっていた。



「降りる!降りて走る!」

「滅多なことを言うものではないよ」

「私走った方が速いよ!本当だよ!」

「それでは卿に逃げられるだろう」

「そっか!わざとか!」



どうやら馬のあの振動が嫌なようで、たてがみとも背ともつかない場所に必死にしがみつく。
手鞠が一刻ほど叫び、松永が二刻ほど笑ったところでようやく目的地へたどり着いた。



「あれ、いつの間にか備前に来てる。
松ちゃんすごいね、瞬間移動?」

「そうだとも。」



叫びすぎて道中の記憶がすっぽ抜けた手鞠を引きずる形で手を引いて、何やら豪奢な城へと近づいて行く。
色とりどりの四角い布がずらりとあちこちに飾られ、城にしては珍しい形をしているとしか手鞠には判断できなかった。



「ところで卿は神とやらを信ずるかね?」

「神様?」

「ああ。」



微笑をもって正面を見据える松永を見上げながら歩を進めた。
話題を振られはしたものの、さしてよく考えてはいない。
ただ引かれる手が首輪のようだと思った。



「ううん。」

「それは何よりだ。
まあ卿が何を信じようと自由だが、この城には南蛮由来の神を祀っているらしく…」



そうして口笛を吹くように、空いている左手で軽く指を鳴らした。
直後、城の一部が轟音と共に爆発したのがこの位置からでも手鞠には見えた。



「この程度のことで怒りを買っては先が思いやられるのでね。」

「あー。」


 

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -