▼
「またこの時期が来たか……」
すっかり高くなった空を見つめながら爪を噛みつつ、奥州の竜は呟いた。
本来ならば考えたくもない、思い出したくもない相手のことを。
「…政宗様、こちらにいましたか。」
「……調べはついたか。」
小高い丘に座り込む自分を見つけた小十郎へ振り返らずに声をかける。
バサバサと紙を開く音が聞こえ、恐らくは密偵からの報告書であると察しがついた。
「はい、報告によると…………松永の軍が妙に襲撃の準備を始めたと……」
「あんんんの梟野郎おおおおお!!
shiiiiiiiit!!」
魂の叫びはずいぶんと山に木霊したという。
「一体何でだ。」
ドン、と自分の目の前に座る部下に投げかける。
頭を抱える部下の後ろの壁には「狙われた物リスト」と題された目録が貼られていた。
毎年冬の入り口になると、嫌がらせとも取れそうな程にあるところから襲撃を受ける伊達軍。
あるところとはもちろん、松永軍だった。
「あの男の考えてる事なんざさっぱり分かりませんよ筆頭。
単なる暇つぶしじゃねえんですか?」
「竜の住みかを退屈しのぎで荒らされてたまるかよ。」
「とは言っても、あいつを見てるとそんな気分になるんすよ…」
いたずらに兵を動かして、何かを奪ったり奪わなかったり。
そんな遊びのような襲撃が冬の入り口に途端に増える。
向こうが知略に長けているのに加えてあの伝説の忍びまでいるので、思うように対抗出来ないのが毎年の常だった。
「政宗様、ここはやはりどこかと手を組んででも一度奴を叩いておく必要があるかと…」
「そうだな…あの野郎のことだ、他でも恨みを買ってんだろ。
関わりの深い軍からそう言った奴らを見つけて共闘を取れ…ば…………」
「…政宗様?」
「……俺、んなダチいなかったな……」
「解散だ!!
全員持ち場に戻れ!!」
その後ダッシュで全員その場から駆け出し、政宗の頭上には青い縦線が降り注ぎ、右目は必死にその名前を叫んでいた。
prev / next