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「……今日は引き上げるとしよう、気が静まってしまった。」
「二度とくんじゃねえ!」
遠くから響く声も聞こえない。
ただちらちらと降りてくるこの雪を見つめながら、踵を返して来た道を戻りだす。
この地域ならば積もるかも知れないが、自分の城がある地域ではもうしばらく降らないだろう。
手鞠の逃れた南ではひと冬を越してもきっと降らない。
そして思い知る。
冬はこれから始まるのだと。
けれども毎年訪れるこの色の無い世界をなすすべなく過ごしてきた訳ではない。
この体に蔓延る虚しさを霧散させる方法ならいくつも見つけた。
近づき、離れ、近づき、離れ、きっと自分達は、そうだ。
そうやって相手に取り込まれない、最善の距離をさぐり合う。
向こうがどう思っていようとも、少なくとも自分がこの関係を溺愛してしまっていることは確かで。
「…文の下準備でもしておくか…」
向こうはまだ雨が降るだろう。
今は雨が好きなのか、嫌いなのか。
最初の手紙にはそれを書こうと思った。
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