松永久秀 | ナノ


▼ 




……嗚呼、嗚呼、何とも、まあ。
素晴らしく美しく、酷な言葉であることだろう。
わたしなんでもしてあげる。

居場所はここだと、ようやく自分に認めさせたはずなのに。
どうしても人には欲望が頭をもたげるのだ。
さらりと笑顔でこんなことを吐かれてしまうから。

そしてこれはきっと必ずその通りにしてくれることを、知ってしまっているから。



「お姉さんどうしたの?
やだなあ、もう。」



せっかく少しのお別れなのに、と笑って顔を覗き込み。





「そんな苦虫を噛み潰したような顔、しちゃやだよ。」





このまっさらな織物のような悪意を、私はこよなく愛でているのだと思う。






――――――――…



「夕焼ーけこやけーのー、赤…赤…」

「蜻蛉だ。」

「赤とーんーぼー。」



日はすっかり沈み、街は入り日色に包まれた。
かといって急ぐ家路があるわけでなく、待つ者がいるわけでもない。



「あ、松ちゃん敷地貸してくれてありがとう。」

「何、易い。
見返りは卿の時間で構わないが?」

「はて何のことやら。」

「新しい刀を手に入れたのだ、自慢させたまえよ。」

「…分かったよー。」



仕方なしに来た道を戻るように駆け出した手鞠を、気分良く馬で追いかけた。

着くのは夜半か、帰り道は多少薄暗いだろう、といった考えが頭を過ぎると、口元が自然と戸惑いで笑んだ。



これが一体どこに帰ると言うのだろう。

少なくとも自分の居る場所でないことだけは確かだった。



 

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -