松永久秀 | ナノ


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「……ダテ?」



振り返ると、いつの間にか立っていた政宗が腰から刀を抜いていた。
右手に三本、左手に三本。



「…今何したの?」

「んあ?
何って、刀の試し抜きにき…」

「もう一回。」



手鞠の瞳がらん、と光ったことに政宗は気がつかなかった。



「もう一回やって。」

「Ha、こうか?」



一度刀を鞘に収め、改めて高速で刃を引き抜いた。
シャインとも、シャアンともつかない涼やかな鋭い音がいくつも重なって余韻を残す。
ほんの一瞬の音のはずが、手鞠には何秒も続く音に聞こえた。



「もう一回!もう一回!」

「お、この音に気づくとはなかなかやるじゃねえか。
よく聞いとけよ。」

「うん!」



それから何度鞘から抜いても手鞠が飽きることはなかった。
それどころか引き抜く度に瞳を輝かせ、嬉しそうに笑う。



「試しにお前もやってみな。」

「!
いいの?」

「世話になった礼に出血大サービスだ、You see?」

「わーい!」



そら、と鞘ごと手渡され、どうにか腰にくくりつける。
しかしその難しさは、抜くまでもなく知ることになった。



「う、わぁ」


三本ずつ指に挟めた所で、どう頑張ろうとそれ以上持ち上がらないのだ。
刀本来の重さに加えて指が言うことを聞かず、ほんの少し鞘から浮かせただけで断念した。



「重たい…」

「HaHaHa!
その爪を俺以外に引ける奴なんざいねえ、この手に合うように作られてっからな。」

「そっか…」



多少残念そうに刀を返すも、また持ち主が鞘から抜いてくれたのですぐに喜んだ。



「その速さと良いこの音の分かり具合と良い、悪くねえ。
Hey、俺とダチにならねえか。」

「ダチ?」

「Friendだ。」

「ふれん…」

「と…友達、だ!」

「おー!
なるなる!」

「Really!?」



顔を輝かせた相手と同じくらい満面の笑顔を見せて、手を叩いた。



「よし、これからお前はどこに行くんだ。」

「ちょっと尾張の方に行こうかと。」

「そうか…小十郎に会わせてえが、遊子は遊子だ。
足が向いたら奥州に来な。」

「うん。
あ、じゃあこれあげる。」



ふいっと首からあの赤い硝子を外して手渡した。



「!
そいつは西洋の硝子じゃねえか…良いのか?」

「ずっと見てたから。」

「気づかれてたか…。
こういった西洋のモンには目がなくてな。
ダチの証にもらっておくぜ。」



馬も回復したようで、互いに正反対の道へ体を向けた。



「道中気をつけろよ。
Good-bye。」

「ぐっばいー。」



ひらひらと手を振り返し、軽やかな蹄の音を聞きながらこちらも歩き出した。
歩くたびにしゃらしゃらと揺れる、気に入っていたあの硝子はもうない。
そのことが、心から。



気楽に思えた。







―――――――…


「Hey小十郎!
俺にもついにダチが出来たぜ!」

「おお!
今夜は赤飯ですな!」


 

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