松永久秀 | ナノ


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遠く離れた小高い山の上、あれから全速力を続けた一人と一頭は見事に同着を果たしていた。



「はぁ…はぁ…この俺と同時か、やるな。」

「どうして息切れてるの?」

「叫びすぎた…」

「ええー…」



普通乱れるのは馬だろうに、とはあえて口に出さなかった。
刀を六本も持っているから重いのだろうかと考える。

そんな折、何のためにここまで来たのかを考えた時、はたと思い出した。



「あーそうだ、これ落としたよ。」

「あ?………!!」



バッと自分の腰元に手をやり、もう一度手鞠の持つ小さな青い巾着を見た。
かいている冷や汗具合から相当大切な品だったらしい。



「はい。」

「Thank you!
うおおあっぶねえ…小十郎にぶっ殺されるとこだ。
お前は命の恩人だぜ。」



こいつを届けるために走ってたのか、と尋ねられたので頷くと、何やらふるふると震えながら手を握られた。



「何て漢らしい心意気してやがんだ…!」

「ここは反論すべきか。」

「しかも俺に追いつくあの走りは痺れたぜ!」

「何と。」

「よし、もう一走り行くぜ!
Come on!」

「えええええ。」






―――――…


「Ha、それでずっと遊子をしてやがんのか。
慶次に似てんな。」

「うん。
でもオウシュウ?は行ったこと無い。」

「一度来てみろよ、なかなか悪くないぜ。
何せ独眼竜と呼ばれる俺が筆頭だ。」

「ああ、そのオウシュウ筆頭の独眼竜さんが…」



ちらりと休んでいる馬に目をやって。



「走り出し直後に馬もろとも倒れるとは…」

「言ってくれるな…」



相当疲労が溜まっていたのか、馬も人もほぼ同時に倒れ込んだのを手鞠が受け止めた。
どうにか木陰まで移動させはしたものの、こうして他愛ない話をすることしか出来なくなった。



「shit、完全に失念してたぜ…嫌な奴に会って俺もこいつも神経すり減らしてやがったんだ。」

「やな奴?」

「ああ、俺の刀を収集したがってる食えねえ野郎がいやがるんだ。
さっきお前が見た俺ってのはそいつから逃げた俺だろうよ。」

「確かにダテは刀たくさんある。」

「これは竜の爪って言ってな、全部が全部一等もんだぜ。
どれとして欠けちゃならねえよ。」



ふうん、と見やると腰の両脇に刀が三本ずつ。
確かに爪のように見える。
けれど物の良し悪しは正直あまりよく分からないので、そろそろどこかへ行こうかと何気なく背を向けた時。



研ぎ澄まされた幾つかの音が、束になり手鞠の耳に飛び込んだ。



 

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