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「いいなあ、私も知りたい。」
「何をだね。」
「何かを自分の一部にしたい感じ。」
どんなんなんだろ。
黒一色の視界の中でそう呟いた。
自分の視界を塞いだ松永の手がどけられることはそれからしばらくなくて。
「…卿に教えられるというなら、これ以上のことはない。」
異様な近さで聞こえてきたその囁きにだけ、微かな感情が感じ取れた。
「どこに行こうかなー。」
あれからしばらくして、廊下を歩いている際にもうすぐ客人が来ることが耳に入り、ふらりと屋敷を後にしてきた。
見当たらなかったので特に松永には何も言ってこなかった。
良い匂いに眠りかけていたので屋敷の近くの木の上で多少眠りを済ませると、次に考えるのはこれからの道のり。
寒いから南にしようかとも考えた矢先、地なりするほどに猛烈な馬の蹄の音が木の上まで響いてきた。
「!」
すぐさま身を起こして眺めの良い枝へ移ると、丁度真下を武装した男の馬が駆け抜ける所だった。
「Shit!
あの野郎…覚えていやがれ…!」
そんな台詞と憎々しげな目つきは慣れているとして、腕を組んだまま馬に乗る人間は初めてだ。
何ともなしにそれを見送った矢先。
「あ。」
過ぎ去ったばかりの馬から何かが落ちた。
薄い青の色の小さな巾着。
武人らしからぬもの、ということは重要な物だと手鞠は判断して、すぐに足を動かした。
「おおーい。」
「あ?
チッ…腹が立ちすぎて耳までイカレやがった。」
「おおおーい、そこの人ー。」
「妙な呼び声が頭から離れねえ…これというのもあの烏野郎の…」
「そこの三日月の兜の人ー。」
「んだよ幻聴にしてはやたらはっきりしてん……ぁあ!?」
「ああーやっと気づいた。」
よもやと思い振り返った先には、凄まじい勢いで自分の馬と並ぶべく猛走している姿があった。
しかも見る限り少女らしい。
「Hey!てめぇ、俺の馬と並ぶたぁただもんじゃねぇな…!」
「おーいこれ落としたよ。」
「しかもただの走りで追いつきやがったとはな…俺もなめられたもんだぜ。」
「声小さいかな…」
「上等だ!
この竜の走りについてこれっかな!?
Come on!」
「あれ、いらないの。」
「Ha!万が一俺に勝てたらいいもんくれてやるよ!」
「!
待て馬ー!」
「うおお速ぇ!
速ぇじゃねえかてめぇ!!」
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