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次に訪れたのは冷え冷えとした薄暗い調理場。
ここは確かに好みそうだ、と先ほどと同じように何の罪もない天井へ鞘を向けた。
そして。
ゴォン!
「わわわわっ」
当たりの声がした。
ゴォン!
ゴォン!
ゴォン!
「ちょ、ちょ、まっ、」
耐えかねたと言わんばかりの表情が天井の一部を外してひょっこりぶら下がる。
手鞠だ。
「二度目か、まあそこそこの結果だろう。」
「松ちゃん何の話。」
「いやなに、今日の運勢を占ったまでだ。」
「今日もう終わるよ。」
眠りを妨げられたわけではないらしく、比較的覚めた顔で松永を見つめていた。
「卿はいい加減屋根の下で眠ることを覚えてはどうかね。
無論屋根裏は論外としてだよ。」
「そのうちなー。
で、松ちゃんは何かあったの。」
「時間が私に纏わりついて離れないのだ、卿も付き合いたまえ。」
「松ちゃんモテモテ!
おやすみなさい。」
「あの忍に一晩中卿を追わせることも出来るのだよ。」
「ちくしょー。」
さすがにそれは嫌なのか、しぶしぶといった感じで降りてきた。
「じゃあ松ちゃんの集めたの見せて。」
「卿も飽きないな。」
「それは松ちゃんだよ。」
否めなかった。
また増えてる、という手鞠の言葉は軽く聞き流し、自室の黒塗りの机に収集物を並べた。
多少背の高い机のために手鞠が顔を乗せたままそれらを眺めるので、生首のようだと率直に思う。
そう伝えると両腕も机の上に乗せて見せた。
「平蜘蛛は?
松ちゃん平蜘蛛は捨てた?」
「あれを手放すくらいなら私は命を捨てることさえ、何も惜しくはないよ。」
平蜘蛛とは黒塗りの名高い名器のことで、読んで字の如く平べったい蜘蛛を思わせる。
その醜悪とも珍妙ともつかない姿は、しかしいっそう人の心を引きつけるもので、いつの間にか魅入ってしまう恐ろしい力を持っていた。
「あれは人に貸している最中だ。」
「誰?」
「明智殿。」
「っへー。」
「そんなに驚きかね。
あれはなかなか賢い男だよ。」
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