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遊びに行った松ちゃんの家でさむさむ言っていたら、焚き火でもするか、と提案をしてくれた。
「外でやるの?」
「広い方が良いだろう。」
「うん。」
よしよし、とどこか満足げに手を引いて屋敷の外へ連れて行かれた。
「おー。」
パチパチはぜる火は数歩下がった場所に立っていてもしっかり熱が伝わってくる。
少し熱にあたった後、少し離れてわざと空っ風にあてるのも気持ちいい。
「ぬくいかね。」
「うん。
至上稀にみるあったか。」
「だろう。」
「松ちゃんこれ何燃やしてるの。」
「なに、小さな大仏殿だ。」
「ああ、うん。
だよね。」
松ちゃんの「とにかく火をつけておけ病」は元気にしていた。
松ちゃんは厄介な病気ばかりしょいこむ体質らしい。
この場合病気は心の中にあるのだそうだけど。
私の知っている限りでは「とにかく火をつけておけ病」と「何事も爆発させれば全て済む病」がある。
この他にも「生えてくる芽を潰したい病」とかもろもろあるらしい、松ちゃんが言ってた。
「目に見えない物の破壊は実に心が洗われるな。」
なら私をだしにしないで好きに燃やしに行けば良いのに。
そう言ってもここのところは会うたび会うたび「焚き火へ行かないか」の一点張りで、最近は遊びに行っていない。
そんなとき。
「最近京での火事が相次いでいるらしいから、手鞠も気をつけるのですよ。」
濃姫さんに会った帰りに拉致された前田のお家で、もらったおにぎりを落としそうになった。
喉に詰まらせる寸前までいった私には気づかない様子でまつお姉さんは十個目のおにぎりを握り終わっていた。
「空気が乾いているもんね。」
「ええ、全く物騒なこと…」
まつお姉さんは一瞬顔を曇らせたけど、すぐにぱっとお日様のように顔色を戻した。
「さあさ、そんなことよりもっとおあがりなさいませ。
今日は犬千代様がいらっしゃらないことを忘れて作ってしまったものだから。」
「うん!」
「ああそう言えば、松永殿はお変わりなく?」
「もがっ。」
お昼をもらった後、てくてく道を歩きながら首をひねった。
ご飯中に松ちゃんの話題を多く振られたから、まさかまつお姉さんの火事の前置きは伏線か、と変なところまで考えて損をした。
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