松永久秀 | ナノ


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目の前の自邸の庭へ降り注ぐ雨は些細ながら、全く途絶える気配を見せない。
女中が洗濯物を干せずに困っているという話を小耳に挟んではいたが、手鞠が雨宿りとしてここへ来ているのを知っているため、もう少し梅雨に続いてもらわねばと考える。



「雨があがった暁には、卿はどこぞへ立つのかね。」

「松ちゃんは先の話が好きだな。」

「決まってないのならそう言いたまえ。」



元よりまだうら若き年頃の身で放浪人とは何とも危なっかしく感じるが、背に背負った武骨な槍が存在を主張していた。
あれを持っている限り手鞠がこの世の中を生きていけるだけの力を持っていることはすでに知っている。
現にこの年まで生きてきたのだ。



「濃姫さんに今度小鳥を捕まえてきてって言われたから、そっちの方行こうかな。」

「鳥か。
彼の姫相手ならさしずめ不如帰といったところだな。」

「鳴かないやつ?」

「卿も意地が悪い。」



そんなことしないよ、とカラカラ笑いながらまた別の書を無造作に開く。
最初から読み出すことなどはなから頭にないらしい。

それと同じく、ここに留まる気も最初からさらさらないらしい。






元々出ていなかった日が沈んでも、雨は衰えを見せなかった。
いつも屋敷の屋根で睡眠を取る手鞠もさすがに無理だと判断したらしく、どこぞへと消えた。



「……ふむ。」



自室に戻り書き物を終えた時点で、今日やるべきことは終えてしまった。
まだ眠るまで大分時間があるも、かといって明日の分まで執務に手を出そうとも思わない。



「…運試しにでも赴くか。」



ふとそう呟いて、刀を腰に携えたまま雨音響く廊下に出た。
ぐるぐると頭の中で選択肢を巡らせながらとりあえず右へ足を踏み出す。

調理場。
倉庫。
女中部屋前廊下。
脱衣場。

さてどれか。


こういう場合はあまり深いことは考えないのが吉、と最寄りの倉庫部屋へ向かってみた。
多少埃っぽいその室内に誰もいないことを確認し、さして遠くもない天井に向かって刀の鞘を向けると。


ゴォン!


力強く打ちつけられたら天井がその一点から波紋を広げるように振動した。
数秒そのまま見つめてみるも、うんともすんとも言わないことからさっさと次の場所へ移る。


 

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