松永久秀 | ナノ


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「他の人間に迷惑はかけていないだろう。
今もこうして拾ってきた小動物と戯れているじゃないか。」

「小動物ならモグラが良いなあ。」

「そんなものを膝に抱きたくはない。」

「じゃあ土に帰して。」

「ん?埋めてほしいのかな。
卿にはお似合いだ。」

「まあひどい。」

「逆にだ、逆に。」

「あー、逆にな。」



受け付けない酒のせいでだいぶ思考回路が働かないものの、酒特有の会話の噛み合わなさは双方とも影響を受けているらしい。
だいぶ浮ついた会話をふらふらと交わす最中、執拗に爪を立てる指はべっちべちはたき落とされていた。



「松ちゃんは分かりづらい酔い方する。」

「そんなことはないだろう。」

「えー…だって松ちゃん、お家の蔵燃やそうとしたよ。」

「…忘れたな。」

「何ですと。」



これは手鞠も三好の一人から聞いた話で、酔うと多少理性がなくなるとでも言うのか、酒の入った松永が屋敷の巨大な蔵を淡々と燃やそうとしたことがあったらしい。
また傍目には酔っているとも気づけないほど平常時と変わらないので御乱心なのか非常に分かり辛かったらしい。
しかも貴重な物が多いせいで、風魔に「この蔵を壊そうとする者は私であれ殺せ」と言ってしまっていたがため、松永の放火を止める者と風魔の松永殺しを止める者のどちらに回るかという最悪な選択肢を三好三人は迫られたらしい。



「未だにあの日の悪夢見るってさ、次男。」

「忘れたな。」

「まだ言うか。」

「言うとも。」



ははは、と棒読みで笑いながらおもむろに膝に手を置くと、ようやく手鞠を膝から下ろして立ち上がった。
少々そこらに出て酔いをさますという。
松永が酔いをさますために何をするか予想してみるも、見事に一種類しかあがらなかった。



「松ちゃんもうお酒抜けた?
抜けないで火ぃ使うと危ないからおよしよ。」

「ははは、この寒空にそんなことをするはずがないだろう。」

「右手のは何?」

「ん?火種だが。」

「すがすがしいくらい何も聞いてなかったね松ちゃん。」



この辺りに火をつけられる場所と言えばこの邸宅以外に手鞠は知らない。
宝の山の蔵を燃やせるくらいならこの家程度比べ物にもならないことも。



「でも松ちゃん、この家燃やしちゃったら寝るとこなくなるね。」

「む…。
それは困るな。」



 

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