松永久秀 | ナノ


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焼けつきた後の仏閣と全く同じものがあるのだろうなと手鞠は思ったけれど、そんな見えない桜を楽しいとは感じないし、これが良いなら良いんだろうと岩に押しつけられている頭で思った。
自分の頭へ置かれたままの手が気まぐれにそこを撫でるので、鑑賞中の本人は一旦放って自分の感覚に集中する。
湿気った森の空気を吸い込む作業に戻る。

そこまで考えて、なんだどっちも、同じことをしてるじゃないかと分かってしまい、少し笑った。






数日後。



「…松ちゃん、何で松ちゃんのお家の庭にあの石あるの?」



あの廃都で別れた数日後に松永の屋敷を訪ねると、非常に見覚えのある巨大な黒石が庭の一角に鎮座していた。



「ん?
ああ、調べたらやはり黒曜石らしいんだが、この表面が実に平蜘蛛に似ていたのでね。」

「あー…そういえば集めてたね。」



道理でいつの間にか山からなくなっちゃったわけだ、とぺしぺし叩きながら呟いた。
確かに鈍い光の反射具合や、黒色の光り方は似ているものがある。
外部から持ち込まれたにも関わらずこの庭に非常になじんでいるのがまた心憎い。


「全く松ちゃんは本当にもう。
よいしょ。」

「早速潜り込む卿には非難されたくないな。」



そんな声を右から左へ流しながら、久しぶりなそのくぼみへ丸まった。
くぼみへ桜の花弁が一枚落ちているのを見つけ、罰が当たるならここで寝ている自分よりもあの場所からそっくり持ち出してしまったこの存在だと確信する。

しかしそれから時々庭のその石に手鞠が潜り込んで眠りに来るようになったので、天罰候補者は実にご満悦なようだった。


 

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