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襲撃がしたい、と物騒なことを松永が日常的に考えるようになった昨今、ふらふら東へ去っていった手鞠から久方ぶりに文が届いた。
それが適当な地に廃都を見つけたので少し居座るという内容だったこともあり、これ幸いと手鞠との合流も兼ねてそこをねぐらにしようと考えた次第だ。
そんなわけでまた一つ悲惨な末路を辿る村が生まれたことになる。
「今日は星がよく見えますねー。」
「うん。」
そんなことはさして気にせず、退廃した屋敷の縁側で足をばたつかせながら兵士達と空を見上げる。
言葉通り、一段と星の映える夜だった。
「あれが北斗、あれが琴。」
「ってこたぁあれが猪ですな。」
「おー。」
無数に散らばるそれらを指さすけれど、到底届かないので皆が皆思い思いの星を指さす。
「…ありゃあ、何ですかい?」
隣の兵士の言葉に顔を向けると、何となくどの星のことを言っているのか気づけた。
赤い星。
それがいくつか、妙に繋がった形で夜空の黒い布に浮いている。
「何か少し不気味ですねぇ…手鞠さん?
どうかしやしたか?」
「え?」
は、と星を凝視していた自分に気づいて意識を取り戻した。
心臓の鼓動が変に大きく聞こえる。
んー?と腑に落ちない表情で首をひねった後、仕方無さそうにその場から立ち上がった。
「もう行く。」
「え?」
「行くね。」
「え、ええ。
お気をつけてー。」
ひらひら手を振る兵士に手を振り返して、近くにある森へ消えていった。
とは言えどこに行く宛があるのだろうと皆が思ったが、実際、それは手鞠が一番知りたかった。
夜桜が廃墟の集まりの中で見事に咲いていた。
裏に広がる山々には一本も生えていないので、恐らくこの屋敷が栄華を極めていた頃に献上されたのだろう。
「主朽ち尚咲き誇る、見る人ぞなきに…皮肉なものだ。」
そう一笑した松永の脳裏に、この桜を見たときの手鞠の表情がありありと浮かんだ。
きっとこの桜の背景にも皮肉にも気づいた上で、気にもせず笑いあげるに違いない。
桜を目にしたことに喜んで。
「手鞠。
…………手鞠?」
広いとは言えないこの中庭にいた手鞠の声が返ってこない。
つい先ほどまで星だ何だと飛び跳ねていたのに。
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