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『水菓子』
どどん、と音が響きそうな雰囲気の中。
手鞠が槍を、風魔が巨大な手裏剣を構え、互いに一つずつ与えられた垣根の前に立っていた。
そんな庭先を横目で眺める松永が座った縁側には、「特別恩賞」と書かれた袋が一つ。
「ではよろしいか。」
三好の一人の声かけに、どちらも無言の肯定で返す。
心得ているのかすぐに左手を高々と上げた。
「いざ尋常に……勝負!」
シャイン、と研ぎ澄まされた音が一閃響きわたると同時に、二人はすでに各々の垣根の横に移動していた。
どちらも構えていた武器を振り下ろしており、それはつまり、終了と同じ意味。
次の瞬間どちらの垣根もばらりと葉の残骸を落とし、手鞠の垣根は虎を、風魔の垣根は龍をかたどった造形が下から出てきた。
「おお、これは名人芸!」
「どちらも毛の一本まで精巧なり!」
「これは甲乙がつけがたい…!」
「…ふむ。」
顎に指を添えた松永がしばらく逡巡した後。
「…龍だな。」
「うわー負けたー!」
「……」
悔しがる手鞠へ心憎いことに風魔が多少胸を張る。
戯れに使った二つの垣根像はすでに庭師が元に戻し始めた。
「精進したまえ。」
「桃食べたかったよー!」
(ああ、あの恩賞水菓子なのか…)
(あくどいことやる分にはこういう合間合間が平和だよな俺ら…)
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