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「……それは、私でなくてはな」
「松ちゃんの十八番だもんね」
手鞠がそう言って笑ったので、瞳が閉じられてしまう。
もはや無意識的に自分を真上から覗き込んでいるその顔に両手を添えた。
頬を包んだ手の甲を、さらさらと手鞠の髪が滑り落ちていく。
「…一人の悪事も、友と行えば悪戯だ。卿のいない謀り事など、無味乾燥の暇潰しに過ぎない」
「松ちゃんは私と一緒に悪い事をしたがるね」
「それは卿もだろう」
「私は戦力が足りない時だけだもん。なんで私ばっかり誘うの?」
そう尋ねると、松永は目を細めた。
今にも額と額がぶつかりそうな近さにある手鞠の大きな瞳を覗き込む。
目は、何かをよく見ようとする時に細まる。
手鞠は目を逸らさない。
今まで、一度たりとも。
覗かれたくない深淵も、隠しておきたい真実の心も、何も持ち合わせていないからだ。
だからいつだって手鞠の目には覗き込んだ自分の顔が映っている。
それがこの世の真理であると、自分は心の底から信じている。
「……卿は私だ」
思わず口をついて出た言葉に、手鞠が小首を傾げる。
分からないのならそれで構わなかった。
「……殺生を行った物の地獄の刑期は五百年と言われている」
「…ん?」
「盗みを犯せばもう五百年。飲酒で更に四百年。寺を焼けば八百年。全て合わせると二千年は固いな」
「松ちゃん全部やってるね」
「嗚呼、卿もだ」
「ん?」
クツクツと笑い、自分に跨る手鞠の腰に手を回す。
細いそこへ指を這わせても、言葉の意味を考えている手鞠は気づかない。
「一人で地獄を巡るのは退屈だろう。卿も等しく業を重ねなければ、私が寂しいじゃあないか」
「えっ、私地獄でも松ちゃんと一緒なの?二千年も?」
「地獄は時間の流れが違う。正確には百六兆五千八百億年だ」
「……やだよ!」
「はははは」
手鞠がキーキーと嫌がって暴れ、松永が頬杖をつきながらそれを笑って見ているうちに、少しずつ夜が明けていった。
最終的に地獄の獄卒としてなら二千年居られないことも無い、という結論にまとまった。
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