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かくして連れ去られた若い女の運命が、男達の慰み者にならなかったからと言って幸いだったかどうかは分からない。
なぜなら。
「じゃあ次は隣町のお団子屋に行こーね!」
「ちょ、ちょっと待……」
「走るからねー!」
「休ま、休ませ…!」
元気印がついた暴れ馬の遊び相手になる事の大変さを理解する頃には、すでに頭の上に日が昇っていた。
夜半に攫われ、そのまま担がれて山を下り、やれ鬼ごっこだ隠れんぼだの、昔話をしてほしいだの、隣町の山から夜明けを見に行こうだのと、眠る暇も与えられなかったのだ。
「もう足が言うこときかないよ…」
「じゃあおぶっていくね」
「…………」
乗馬嫌いの手鞠がその辺から馬を借りてくるということは無く、音を上げればこうして担いでくれるだけまだいいのだけれど。
面積の広い男の背中ならともかく、体格の近い女に担がれても全く落ち着くことなど出来ないのだった。
手鞠は思っていたより扱いやすかった。
女が反抗しても不機嫌になる事は無い。
こちらの手足も縛らず、口も塞がない。
だからと言って、隙を見て逃げ出せるような気配は微塵も感じさせなかったが。
「はあ…はあ…」
「お茶屋さんで少し休もうねー」
「農作業と子守を同時にしてた方がまだ疲れないよ…」
手鞠に担がれて到着した茶屋で、ようやく腰を据えて休むことが出来た。
久々の食事が団子なので喉の通りが良いとは言えないが、それでも貴重な兵糧だ。
手鞠は隣で茶をすすりながら、次は何をして遊ぼうかと検討し始めている。
もうこれ以上何の遊びがあるのだろう。
「…あんたは体力が底無しだね」
「んー?よく言われるけど、そうなのかな」
「自分の事でしょう。分からないの?」
「お姉さんは分かるの?自分の体の事とか、そういうの」
「それくらいは分かるよ」
ふうん、と大して興味もなさそうな返事が返ってきた。
一緒に団子を食べている時でも手鞠の手足は落ち着かず、伸びたり縮んだり、パタパタも忙しなく動いたりしていた。
彼女はそれにどこか見覚えがあった。
しかし結局それを言い出せぬまま、あっという間にまた遊びに連れ出され、息も絶え絶え付き合ったのだった。
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