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穏やかで平凡な村を襲撃すること。
めぼしい物を見つけるでなく、ただ争いの流れのままに火を放つことは、昔から息をするように出来た。
為す術もない村人の悲鳴など別に求めていない。
ただの民草の悲痛に満ちた表情など特に面白くもない。
ならばどうして襲うのかと、未だに自分に問うてきた人間はいないが。
「……ん?」
集められた村の女達の中に一人、整った顔の者がいた。
馬上の松永と目が合うと、僅かに息を呑んで顔を伏せる。
自分の価値をよく理解している者の行動だ。
ほう、と口から漏れる声をそのままに部下へ合図を送ると、慣れた手つきでその女のそばへ行き無理矢理に立たせた。
「ああ、おみね!おみねだけはどうか勘弁してください!」
「黙ってなおっかあ。あたしが行けば他の皆は何とかしてくれるだろ、余計なことを言うんじゃないよ」
「それでもあんた、どんな目に遭うか…!」
母親が取り乱して叫ぶほど、女の顔には落ち着きが宿っていく。
こちら側としても腹を括ってもらえた方が色々と面倒がない。
「……あんた達と行けばいいんだろ。煮るなり焼くなり好きにするがいいさ」
「そうか。では手鞠の相手を君に頼もう」
「……は?」
「おねえさーん!!」
何処からか飛び出してきた手鞠を受け止めきれるはずなく、女の身体は共にゴロゴロと転がっていく。
突然の事に驚きながらしがみついてくる体を引き離そうとして、手鞠が女だと認識した途端にまた驚く。
……村村を襲うのは、多少なりともこの顔を見るためかもしれないな、と考えて。
「此度の報酬はそれでいいだろう」
「ばっちりばっちり」
「え…あたしをどうする気…?」
「何、三日三晩ほど遊び倒せば解放される。尽力したまえ」
「は、は……!?」
「ではまた遠くないうちに会おう、卿の息災を願っておくよ」
「じゃあねー」
ブンブン手を振る手鞠の笑顔と、傍らであっけに取られている女の顔を並べて見つめ、微かに満たされた気持ちのまま村を立った松永であった。
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