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そんなとき祭壇の中央に何やら色とりどりの光が当たっているのを見つけた。
最初はそれが何か分からず、光が指している床の部分をちょいちょいつついていたが。
やがて理解して顔を上げる。
「……うわあー。」
目の前の壁一面に、美しい彩りのガラスで作られた巨大な絵がはまっていた。
赤、青、緑、黄、紫、橙といった透明感のある細分化したガラスが日の光を受けて水のように輝いている。
手鞠は心ゆくまで目を奪われた。
「ほう、これは見事だ。」
「あ、」
無意識に手鞠が机上から持っていた教典をひょいと取り上げ、松永が横へ並ぶ。
ステンドグラスだったか、確かじゃないな、と独り言をごちる松永を後目に、この色ガラスで描かれた人らしいものは一体誰なんだろうと考えた。
大柄な男と小柄な人間が向かい合う奇妙な絵。
「松ちゃんこれだあれ。」
「恐らくはここの教祖と…まあいわゆる神だろう。」
「助けてくれる方の?」
「それ以外の神に何の価値があるのかね。」
ぺらりと手元の教典を興味なさげに開き、徒然に頁をめくる。
「神を神たらしめるのはその万能さと公平さだ。
人に宿り得ない最たる力…故に人は神にとりすがりその恩恵を受けようとする。
さながら生みの親にその責任があるとでも言うように。」
く、と松永の口端が持ち上がるのを手鞠は見た。
哀れむような、蔑むような笑い方。
この笑い方は嫌いじゃないけど、好きでもないなあとさして関係ないことを考える。
「神が万物の父だと言うのなら、果たして己を信ずる者のみを救うその姿勢のどこに人は公平さを見出すのか…いやはや不思議なものだ。
己の神を信じすがるという行為そのものが、その存在の精巧さを欠けさせているというのに。」
音を立てて本を閉じ、元にあった場所へ戻すという配慮は微塵もない動作で祭壇へ放り投げた。
「この美しい硝子の絵とて同じだ。
見たことのない相手を美化しただけに過ぎない。」
「でも私、これ好き。」
「…これがかね。」
「うん。」
意外そうに見下ろすも、手鞠は視線を合わせずに正面の宝石のようなその絵を見つめ続ける。
一瞬だけその目がらんと光ったことを松永は見逃さなかった。
「欲しいなあ、これ。」
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