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「だから最近は気づかれるまで松ちゃんの友達だって事は周りに言ってなくて。それで伊達の力になるのが遅くなってごめんね」
「んな事はどうでもいい。全部あの野郎が悪いんだからな」
それより、と思い出したようにこちらを見て。
「話の中で慶次の奴、あんたに雛菊と名付けちゃいなかったか?今は紫菊なんだろう」
「あー、それも話すと結構長くて…」
その言葉をかき消すように、どこかの門扉が派手に開かれる音が聞こえてきた。
「っおーい独眼竜!紫菊!風来坊前田慶次!ただ今到着だよ!」
「お、来たな…ってテメェ!そっちは裏門だ!」
「え!?あははごめんごめん!あとこの門のかんぬきちょっと壊しちゃってさあ」
「おまっ、小十郎に叱られんだろうが!」
賑やかな声が響き始めたのでそちらに向かっていくと、見慣れた慶次の横にふた周りは小さい人影があった。
「…あ?孫市もいるじゃねえか」
「ふん、からすめ。生きていたか」
「Ha!俺の様子でも見に来たのかよ」
「自惚れるな。彼奴が来ていると聞いて立ち寄った迄だ」
「孫市ー!」
久しぶりの顔に飛びついて抱きしめると、孫市は軽く笑いながら頭を撫でた。
「久しいな千代」
「久しぶりー!」
「ああ、アンタらは知り合いだったな」
「うん、仲良しだよ」
「おーい独眼竜ー、この部屋に酒広げちゃっていい?」
「テメェは勝手に入ってんじゃねえよ!」
それから慶次が抱えてきた酒を並べたり、小十郎が作ってくれた料理を出したりして宴会の準備をした。
次から次へと慶次が酒ダルを取り出すので、あっという間に部屋がいっぱいになっては広い部屋に移動するのを三回も繰り返した。
「そんじゃこの…んんー…よく分かんない集まりにカンパーイ!」
「何だよその掛け声は…」
「だって俺と孫市と紫菊だろ?それに伊達と竜の右目って取り留めなさすぎじゃない?」
「奇妙な面々ですな」
そうは言っても、伊達はとても嬉しそう顔をしていた。
小十郎も笑わないけど、そんな伊達を見る目が少しだけ優しかった。
私は孫市の隣に座ってそんな景色をそっと見つめた。
「孫市は飲まねえのか」
「孫市は元々そんなに飲まないけど、紫菊が飲まない時は特に控えるんだよ」
「ああ、千代が下戸だからな。我らが全員酔っ払う訳にもいくまい」
そう言いながら、私と同じ昆布茶をすする。
「そんでアンタのつけたnameは『千代』か、いい加減ややこしいぜ」
「良い名だろう。我らの魂である八咫烏の伝承から名付けた」
「Hamn…そりゃ立派なnameじゃねえか」
「生涯の伴侶相手に下手な名を付けるわけにもいくまい」
「そりゃそうだ」
hahaha、と持っていた盃からぐいーっと酒を飲み干して。
直後にむせて全部吹き出す伊達の様を私は見た。
「ぐッ、ゲホッ、ゲホッ!……Pardon?何だと?」
「八咫烏が初めて交わりを持った人間が千代包と言ってな、我らが民と交わりを持つきっかけの存在としてその名を…」
「違えよ!close-upしろって事じゃねえ!」
ほら、と伊達に冷めた昆布茶を渡すと、こくこく頷きながらそれを飲み干した。
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