松永久秀 | ナノ


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(松永の知人と間違われるくらいなら、いっそこの手であんたを、って思ってたけど……)



大きな拳で自分の目元を何度も擦る。
そのうちようやく顔を上げて、私の頭に手を置いた。



(…こんなおひいさんみたいな子を追い回してまで、俺、何やってんだろうな……)



ごめんな。ごめんな。
慶次はそう何度も呟いて、また泣き、また謝るのを、とうとう朝日が昇るまで繰り返していた。

泣き疲れて眠ったのか、疲労か酔いか、意識を失いかけていた慶次を半分引きずって近くの国境へ連れていくと、そこには前田を名乗る夫婦が待っていて。
そこから今まで前田家との関わりが続いている。



慶次は私とすぐに打ち解けるようなことは無かったけど、代わりにすぐに突き放すことも無かった。
少しずつ、自分に無理のない範囲で私と松ちゃんの関係を聞き取っていった。

松ちゃんの遊び相手である事。
手を貸すこともあるけど慶次の事件には関わってない事。
前田家が織田軍に降っているため、城でまつお姉さんと良く会う事。
慶次は一年かけてその事実を集め、まとめて、飲み込んで。

そうして、私と松ちゃんを切り離して考えてくれるようになった。



(まつ姉ちゃんは手鞠って呼ぶけど、俺もあんたに名前をつけていいんだろ?)

(そうだよ)

(んじゃ、俺はあんたを雛菊とでも呼ぼうかね。花の慶次に間違われてたんだ、皮肉くらいは入れねえと)

(お花かあ、可愛いね)

(いいだろ?)



それから名前がまた変わるまで、慶次は何かと気にかけていてくれたんだ。






という流れである事を、結構かいつまんで伊達に話した。
話しながら作業している間に畳の掃除はすべて終わっていた。



「確かに慶次は松永の野郎と因縁があったな」

「そうなんだよね。そしてそう言う人全然珍しくないから、道中はちょっと気をつけるんだ」

「アンタは襲われたりしねえのか?」

「たまに松ちゃんを憎んでる人が来るけど、大したことはないんだよ。それより友達だと知って一歩引かれたり、逃げ出される方が多かったから」

「……気持ちは分かるぜ」

「私も」



松ちゃんの嫌われっぷりと、畏怖されてる度合いは大した物だ。
どれだけ関わる時間が短くても、相手全てに「二度と会いたくない」か「是非また一目会いたい」のどちらかの気持ちを植え付ける。
後者は大体が女の人だけど。




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