▼
「狐のお面があるよ松ちゃん。
火男とかおかめとか。」
「そうか。」
図らずして手鞠の予測は当たっていたようだ。
次々仮面をつけて遊ぶその横で、名前しか聞いたことのない高名な儀式の仮面も見つけて目を見張る。
どうやらこの品々の持ち主はかなりの手腕を持っているらしい。
「実に種に富んでいる。」
「目だけ隠すやつとかもあったよ。」
「ほお、顔の一部だけを隠す面というのも悪くは…」
と言いつつ振り返ると般若の面を付けた手鞠が立っていた。
死ぬほど心臓が跳ねたのは何とか顔に出なかった。
「…何故それを選んだ?」
「……」
「手鞠?」
無言のまま答えずに般若の面を外す。
「これ口にくっついて喋れない。」
「どれ。」
左手を腰に当てたまま右手で松永が般若の面を付けると。
「うわあ。」
「………」
とても子供に優しくない姿になった。
そんな空気を感じ取ったのかすぐにそれを外す。
「松ちゃん似合わんなー。」
「そうか…何がいけない?」
「え、似合いたいの?」
それはちょっと考え直した方がいい、と直球の発言をされたので仕方なく壁へ戻した。
「そういえばそこに外国の言葉が書いてあったよ。」
背で手鞠の言葉を受け止め、改めてその面々の下方に視線を移すと、確かに流れるような文体で『Sorin.O』とある。
「そ…りん…宗麟、大友…。
…まさかな。」
一笑にふしたあと、部屋が妙に静まり返っているのに気付いた。
よもやと思い背後を見ると、忽然と姿を消している。
手鞠が不意に消えたり現れたりするのは特技とも言えるほどなので驚きはしないものの。
次の部屋へ進む扉は、二つ壁にはまっていた。
「…さて、変なものがいそうな気配はどちらかな、と。」
「おー!」
一方、実は右の扉を選んでいた手鞠は再び長い廊下の末、とある巨大な室内にいた。
長椅子が左右に列挙して並び、臙脂の絨毯が正面にある祭壇らしきところへ向かって伸びている。
大聖堂。
そう呼ぶことも手鞠は知らない。
巨大なステンドグラスと周囲に精巧に作られた飾り窓から差し込む光が、冷たそうな色合いの堂内を何とか明るいものにしている。
それでも目を輝かせて初めて見る分厚い聖書や、銀の燭台をまじまじと見つめていた。
prev / next