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取り返さなくていいんだな?と念を押して確認されたので、手鞠は笑った。
硝子は硝子の形を保ったまま、また誰かに大事にされている。
それなら自分の所になくたって、同じじゃないか。
「But、なぜおっさんが硝子の破片に目をつけたんだ?ああ、アンタには関係ねぇが…」
「あ、実はそれ…」
口を開きかけた直後、遠くから派手な足音が聞こえてきた。
随分大股で、かつ跳ねるように駆けてくる。
どう聞いても小十郎の物ではないそれに、政宗が片膝を立てて刀に手をかけた。
次の瞬間、足音と同じくらい派手に襖が吹き飛んだ。
「ちょいとお邪魔するよ!独眼竜はここかい!?」
そう叫びながら現れた派手な黄色に、政宗が刀から手を離して叫んだ。
「てめっ、慶次!普通に来ねぇとまた小十郎にドヤされるぞ!」
「そんな事はいーからさ!ついさっき松永が奥州に向かって進軍してんの見ちゃったんだって!」
「何!?」
「冬以来来てないなって安心してたらこれだよ!雑賀衆もいないのにどうすんの!」
チッと隠す気のない舌打ちをする。
頭を悩ませている松永軍は冬の始めに来たきり音沙汰が無かった。
「今回は援軍は無しだ…俺達の力でやってやる」
「でもあいつ、独眼竜の事知り尽くしてるからなあ…流石に今回は俺も手伝うけど、助力してくれそうな人いないの?」
「いい加減あのおっさんのダチを見つけ出すしかねぇかもな…」
「今回は間に合わないって!そんな特徴的な奴でもないし、地道に探す他ないしさあ」
「松永と似た服着て、槍使い…だったな?」
「そうそう!あと背はそんな高くなくて、足が速い……ちょうどここにいる子みたいな感じの!」
と座っている手鞠を指さして。
数秒間慶次が固まった。
「……あ、れ?」
「…ん?」
「……What?」
そして数秒後。
慶次の叫びが響き渡った。
「何でいんの!?独眼竜、あんたいつ見つけた!?」
「あ?何の話だ」
「最初っから最後まで同じ話だよ!これ!この子!松永の友達!」
「……は?」
慶次にがんがん指をさされながら、相も変わらずのんきに笑っている手鞠と、必死な形相の本人の顔を交互に見る。
「こいつは俺のfriendだぜ、どこも情報と合ってねえじゃねえか。そもそも女だぜ」
「俺は男だとは一言も言ってないよ!?」
「……おい、あんた松永の友人か?」
「はい!」
元気に挙手する手鞠を認めると、政宗はふっと小さく笑った。
それを見て、少し慌てすぎた自分を自覚した慶次。
まだ何も起こっていないのに焦りすぎだ、と咄嗟に自省する。
そんな中、政宗は慶次が開け放した襖の近くに立って。
「……小十郎!heeeeeelp!!!」
「めっちゃくちゃ焦ってんじゃんよ!」
「どうしました政宗様!やはり桜餅がご希望ですか!」
「あんたはあんたでさぁ!」
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