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6、にらめっこ
「あれを必ず捕まえられてはつまらないだろう?」
まだ雇われてから日の浅い内、松永が自分へそう発したことを風魔は今でも覚えている。
確かこの雇い主の友人という珍しい存在を捕獲する命を受けたにも関わらず、すばしっこく逃げられた時のことだ。
自分としても滅多にあることではない故に、初めは慰めでもかけられているのだと思っていた。
しかし違う。
この男はそんなことをする人間ではない。
「振り切られそうになるなら取り逃がせ。
あらゆる手段を駆使してあの体躯を連行したとして、あれは私には会わんさ。
手足を食いちぎっても逃げるだろう。」
気分と欲求、それから温度。
それらが揃った時でなければ、あれは捕まえられないという。
ならば何故見かけたら捕まえろと命ずるのか、そんなことを尋ねる口は持っていないし、理解する神経も備えていない。
この二人が本当に友人なのかさえ、報酬を貰うに当たっては何の関係もないことだ。
当然自分があの二人へ本心を見せるはずはなく、あの二人がこちらへ本心を見せるはずもない。
加えてもしもあの二人が互いにどこかで欺きあっているのなら、自分達は三人全てが、全てに対して欺きながら生きているのだ。
使い合い、利用しあって。
それでもあの平和に呆けた前の雇い主の元よりはまだ、多少は肌に合うのかも知れない。
そう頭を過ぎった直後、目の前の廊下をあの二人が歩いて行った。
「草木染めで緑、藍染めで青ときたから次は…赤色?」
「となれば、赤紫蘇か。」
「本格的に忍ばない色になってきたなあ…黄色とかは?」
「個人としては金色を推すが。」
「何それかっこいい。」
やはり職場は雰囲気で選ばず、もう少し自分の将来性を堅実に考えて決めようと、この日心に決める一人の忍がいた。
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