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うんうん、とうなずきながら、「この程度」という部位にあえてつっこみはしなかった。
てっくらてっくら大して急がず、爆破で崩壊した部分へ人が集まっているのを好機にさも普通に正面から侵入を果たす。
臙脂の絨毯が敷きつめられた煌びやかな内装を見て、興味津々に手鞠が駆け出した。
「よ、う、こ、そ、ザ、ビ、イ、教…。
松ちゃんザビイ教って何?」
「ん?
片仮名をこよなく愛する団体だと聞くが。」
松永が早速その辺りに飾られた南蛮文化の品定めに入ったことが、適当な返答から伺える。
曖昧に頷いておくことにして、ぐるりと正門内のその部屋を見渡してみた。
「あ、絵だ。」
半ば独り言だとしても口をついて出るような大きめの肖像画が、二階へ伸びる二本の階段の妙に影になる位置に飾られていた。
扉にでもなりそうな大きさだ、と思いつつ不意にその額縁へ手をかけると。
がちゃり
「お?」
扉だった。
そっと中を覗くと薄暗い廊下が広がるも、その先にはちゃんと部屋に繋がっているらしく光がちらちら見える。
「随分容易な隠し扉だ。」
「うわ松ちゃんびっくりしたー。」
良いものあった?と尋ねると、卿は価値のある物を玄関におくのかね、と返された。
「私玄関持ってないから分からんなー。」
「それもそうだ。」
「でも松ちゃんの城の最初のお部屋ってやたらいっぱい骨董があるよね。」
「…見せたくなるものなのだよ。」
入るかを尋ねるまでもなく手鞠がさっさと進み出したので、そろそろ人目につくこともあり共に扉の中へ踏み込んだ。
「良い品がありそうな気配がしないか?」
「変なものならありそう。」
「自分を数に入れるのは反則だろう。」
「ちゃんと隣の人も入れてるよ。」
「…たった今反則から罰則へ変わったな。」
「!」
やいやいと喚きながらたどり着いたのはわりかし広く明るい部屋だった。
床は畳ではなく木張りだが、土足でも問題ないだろうと判断する。
そこから顔を上げた視界に入ってきたのは。
「…また珍妙だな。」
部屋の壁一面にかけ連ねられた数々の仮面。
ざっと見ただけで獣、人型、祭事用と種類は問われていないらしい。
百は優位に越えていそうな面々は部屋に入って瞬間多少の身じろぎを誘うのに、手鞠は何事か叫びながら仮面の群へ突進していた。
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