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この頃、夜明けがやたらと眩しく感じる。
今まで自分が受けていた朝日はもっとささやかで、光が指すというよりも光が滲みいでるような、じわじわと明けの空を染めていくような物だったのだが。
「……む…」
今では瞼を通して刺さりそうなほど強い。
それは何も日輪のご威光が増したわけでも、歳をとって日差しに弱くなったのでもない。
純粋に、起床する時間が遅くなったのだ。
夜明け前には目が覚めていた頃の自分が懐かしく感じられるほど、最近ずいぶんと深く眠っている。
夢さえ見ない。
ふと視線を自室の隅へ移動するが、もうそこには何もいなかった。
だが明らかに人がいた気配は残っている。
手鞠が二日に一度はここで眠るようになった。
元就が布団に入ってから来ることもあれば、先に部屋の隅で丸まっていることもある。
許したのは他の誰でもない自分なのでその行動に特に言及はしなかったが、言及するほど気にならなかったのも事実だ。
実際、手鞠は静かな寝息で眠り、こうして朝は主人より早く起きて部屋を後にする。
元就の自室で眠るようになってから、手鞠の体はたちまち元気を取り戻した。
よく眠り、よく食べ、よく動き、よく笑った。
おおよそ以前の姿と何ら変わらないまでになり。
「……あの阿呆と居ると眠気が移るわ」
今はとりあえず、そう思っておくことに決めた。
起床が遅くなったところで、今までがあまりに早起きだったため多少深く寝ても支障はない。
普段通りに身支度を済ませ、輪刀を丹念に磨き、日輪への供物と祈りを捧げてから外に出る。
今日も晴天であることを確認し、体に日輪の光を取り込みながら、この美しい景色が変わらずにあることを確認する。
輝く海、色めく山、荘厳な鳥居、そして。
「山猪が出たぞー!」
「親子連れだ、追えー!!」
「行け!手鞠!そのまま振り落とされるな!」
「おらー」
巨大な猪の背に乗り、海辺を凄まじい勢いで駆け抜けていく手鞠。
「…朝から酷いものを見たな」
思わず顔を背けた先で、仕留められた猪の悲鳴が聞こえてきた。
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