毛利元就 | ナノ


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風の無い日は、兵達が自分の力量を試すために砂浜へ集まる。
幾つかの種目を決め、その中で腕を奮って自分の実力を知るのだ。
後々に戦へ使う際の指標になるので、時折元就もその様子を観察に来ていた。



「では次の種目は乗馬だな。用意……始め!」

「うわー」

「手鞠が落ちたぞ!」

「何!?どれだけ走った!」

「……二尺!」



砂浜に頭から着地したため、ぶるぶると顔を降って砂を取り払う。
その視界に誰かの影が重なったので、すぐに誰か気づき顔を上げると。


ゴンッッ


「あた!」

「貴様、今のは何だ。巫山戯ているのか」

「ち、違くて。なんか馬が走ると体の中がふわふわする感じがして乗ってられない……本当に!」



話の途中でまた元就が輪刀を構えたので、慌てて釈明する。



「昔から乗ってられなくて!こうドコドコ揺れて、お腹の中がひっくり返って、おえーって気持ちになるから!」

「……槍投げをしてみよ」

「えい!」

「山の向こうへ消えたため測定不能!」

「極端すぎるわ」


ゴンッッ


「てっ!」








――――――……


厳島は安芸の本土から少しばかり船で移動したところにある。
祭事以外では使われないこの美しい場所へ、親切な海沿いの住人が1日に2度船を出してくれていた。
だから元就が屋敷をあけている時、手鞠は大抵ここにくる。



「元就様は隣の国かー…」



この国の繁栄を望む者の仕事は多い。
特に外交は欠かせないのだろう。
そして、そう言う仕事で最も不要なのは自分の存在だ。

礼儀も作法も、自分は何もわからない。
町の人々とは親しくなれても、気位の高い人間とどう関われば良いのかは知らない。

だからこのままの扱いで良いのだけれど、元就がいない以上仕事がないのは退屈だった。



「……桃、黄緑、黄色、水色……」



仕方なしに、厳島のあちこちではためいている美しい布切れの色を唱えた。
厳島と言えどもここは島ではない。
鳥居と広い足場が融合したその場所は、雅な芝居の舞台のようにすら感じる。

ふらふらとそんなことをしていた矢先。



「……ん?」



遠くまで見渡す目が、海の先に一つの物影を見つけた。
それは見間違いでなければ、巨大な船であるようだった。







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