毛利元就 | ナノ


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「……東の一揆はまだ治まらぬか」

「は…一揆とは申されど、所詮は農民の力。放っておけば次第に兵糧も気勢も尽き、勝手に消えゆくものと考えておりましたが……」



勢いが収まらないのだという。
かれこれもう一月、小さな村や寄合を襲っては勢力を拡大し続け、もはや安芸までは山を二つ越えた先という所だ。
元就が隠す気のない舌打ちを鳴らす。



「兵の進みが異様に早いな」

「密偵によると馬を持っているようでしたが、それにしても速すぎますな」

「引き続き情報を送らせよ、彼奴らの行く手にある村は全て廃村にしておけ。物資を絶たねばなるまい」

「……その後、誰が奴らを刈り取りますか?」



脇息へ腕を乗せたままの元就が、手元の長い戦略図に目を落としながら、細く息を吐いた。



「……我の駒にやらせよう」









―――――――――………


安芸の海辺には今、様々な物が散乱している。
一体どこから流れ着くのか、それは男物の帯であったり、燃え尽きた松明の欠片であったりした。
毎日この海辺を散歩している手鞠にとっても見慣れないものばかりだ。

風の匂いも少し変わった。
潮の匂いに、何か人の名残が混ざるようになった。
火薬のような、錆のような、吐息のようなその混じりけがまとわりついて、何だか嫌な気分だった。

だから元就が御堂から出てきた時、普段よりもその表情の奥にある本来の意思を探りたくなってしまったけれど。
手元にある巻物を見てそんな考えを止める。



「…新しい仕事よ」

「はい」



直接元就が手渡しに来る事は珍しいので、機嫌を損ねぬようすぐに手を出した。
するすると広げた巻物にはこの辺り一帯の地形が描かれており、更に朱色で線が引いてある。
それは描かれた二つの山を迂回するように伸び、一つの集落の上で終わっていた。



「その通りの道を行き、先にある集落の全てを潰すのが貴様の役目よ」

「はい」

「尋問用の人間も残しておけ。小隊を一つ連れてくがよい」



こくこくと二三度頷き、巻物を落とさぬように懐にしまった。
風の噂で、この集落にどんな集まりがいるのかは大体分かっている。
でもそんな事は自分には知らされないし、知らされない限りは関係の無い事なので、もうそれきり考えなかった。



「行け」




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