毛利元就 | ナノ


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こんな夢をよく見る。
自分は白く狭い空間に座していて、その正面には、全く同じような自分がこちらを向きながらまた座していた。
普段から手鏡など見ないから、さして見慣れているわけでもない自分の姿をまじまじと見るのは、赤の他人を見るよりも居心地が悪いものだ。

自分と同じかんばせは、自分と同じような声で告げる。



「また徒に兵を消耗したのか」



いつの話だ?
嗚呼、先日の他国侵略の折か。



「捨て駒である事に変わりはないが、不効率過ぎるわ。また分隊長を降格させねばならぬ」

「降格、降格、降格……全くいくら駒がいても足りぬな」

「これしきの戦の指揮も取れぬか……全く聞いて呆れる」



いつの間にか、たった一人だった自分の写し身は二人にも三人にもなっている。
好き勝手口々にああでもないこうでもないと並べ立て、その内容は大抵、自分への罵倒だった。
我はと言うと、それに何か言い返すわけではなく、また怒りを感じる事もなく、ただその場に座し続ける。

そうするべきだと分かっていたからだ。
何に怒るべきか、何に悲しむべきか、到底分からなかったからだ。

ただ、またか、と感じる程度には、もうこの夢を見慣れてしまっていた。
今日の夜にはこの夢を見るかもしれない、とまで分かるようになっているのだ。

だからただ目を伏せ、罵詈雑言の全てを聞いた。
何の感情も、もう湧いてこなかった。





目を覚ましたが、そこが現実だと理解するのにしばらくかかった。
御堂の中にはほとんど灯りがなく、持ち運んだ蝋燭の火が消えればそれまでで、実際今のようにうたた寝をしてしまうと起きた時にはすっかり薄暗くなっている。
頭を二三度振ってうっすらとこびり付いた倦怠感を振り払う。

立ち上がって壁にある木枠から板を外すと、外の日差しが一部分だけ差し込み、室内が明確に明るくなった。



「……全く、夢見まで悪い……」



また文机に戻ろうとしたが、脚を動かすことさえどうにも億劫で、その場に座り込んだ。
もう体にそれほど力が残っていない事を嫌でも実感する。



「もち米は……先日備蓄分を使い切ったか。干菓子も生魚も、油断はならない……」



大きく息を一つ吐き、髪をかきあげた。
自分の右手さえ重く、気だるい。
飲まず食わすが良いことだとは決して思わないが、もうそんな事を考えるよりは、こんな目にあっても仕方がない、という弱気が顔を出すのだ。

食べる事が出来なくても。
飲む事が出来なくても。

それを選んだのは誰かという話だ。

特に珍しい話ではない、三日前のある日の出来事だった。




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