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いつものように晴れた日の昼、いつものようにひれ伏している手鞠と、いつものように輪刀をかざしている元就がいた。
「……貴様、あれほど過ぎた戯れを自戒せよと言われたのを忘れたか。その頭にはおが屑でも詰まっているのではあるまいな」
「ごめんなさい」
「ふん、土下座では生ぬるいわ。そのまま砂にでも頭を埋めてしまえ」
「はい!」
ボスゥ!と砂に頭を突っ込もうとしたが、勢いがつきすぎてそのままゴロンゴロンと転がっていった。
「……良かろう、団子虫も腹を切られれば動けまい」
「ごめんなさい」
その時、大きな爆発音が二発轟いた。
仰向けで命乞いをしていた手鞠も、その腹の上に輪刀をかざしていた元就も、海上に立ち上る二本の煙を見つける。
煙の下には、巨大な船の影。
元就だけが忌々しそうに舌打ちをした。
「……行け。海の藻屑と化してこい」
「はい」
「鬼の片目を持ち帰れば今回の件は不問にしてやろう」
「はい!」
厳島。
相変わらず美しい景観のこの場所に、鬼が降り立ったのは今日で二度目だ。
以前は元就がいない時を狙ったが、今日はあえてそうしなかった。
元就の代わりに誰が来るか、すでに予想がついていたから。
「……お、来やがったな」
船から降り立って反対側を見やると、手漕ぎ船をこいでやってくる手鞠の姿が見えた。
漕ぎ手は乗せていない。
「おーい、鬼さーん」
「……本当に緊張感のねえ奴だな」
呑気なのか怖いもの知らずなのか、船をこぎながら大きく手を振ってきた。
振り返すべきか悩んだが、とりあえず手を上げて返事をしておいた。
船を寄せて、手鞠も厳島の舞台へと上がってきた。
慣れていない手つきでその辺りの柱へ船をくくりつけている。
そうしてようやくこちらを向き、久しぶりーと笑顔を見せて。
槍を光の速さで投げつけてきた。
「うおおおお!」
「あ、避けた」
間一髪の所を恐ろしい速さで貫いていった槍は持ち手のところに細い紐がついていたため、反対側の海へ落ちることなく手鞠の手元にもどってきた。
「だああから突然目を突くなってんだろ!この野郎!」
「元就様が長宗我部の片目を持ってくれば怒るのやめてくれるって」
「俺はやった理由を聞いてんじゃねえよ!『それじゃあ仕方ねえな』ってなるとでも思ってんのか!?」
それでも尚手鞠が槍を構えるので、とりあえず落ち着くために深呼吸をした。
手鞠の背後、遠い海辺に小さく元就の姿が見える。
ここは鬼の住む国だったろうかと考えて、いや鬼は自分のはずだったと思い直した。
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