毛利元就 | ナノ


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「……元就様の蔵の、鍵?」



確信があった訳では無いが、それ以外に心当たりがなかった。
しかし元就が小さく頷いたので正解だとわかる。
日頃から常に籠っているあの海上に佇む蔵。
御堂と囃し立てられる元就の入れ物。



「初めて見た」

「……そうであろうな」



それは真鍮製と思われた。
元就が籠る御堂に用いられている扉は、外からも中からも鍵をかけられる。
本人が鍵を持ったまま中から施錠してしまうので、誰もそこを開けることが出来なかった。
それ故に度々手鞠が武将達から呼び出され、どうにかして元就を外に出してほしいと頼まれるのだ。



「…もう一つあったの?」



それが、元就の手に二つ並んでいる。
全く同じ形、同じ質感の鍵が。
聞けば、新たに作ったとの答えが返ってきた。



「我はあの賊と取引をする」



手鞠は元就が決めたことに意を唱えないし、理由も聞かない。
それでも目を見開いて見せたので、驚きは十分に伝わってきた。



「……見返りの品もあるが、瀬戸内を挟んだ彼奴の国とはいつ戦が起こるか分からぬ。取引を通じて情報を得ておくのも策の内よ」



手鞠がふんふんと頷く。



「然し、我の蔵だけは侵されてはならぬ。あれに侵入されては逃げ場もない。そうなれば見張りを立て、護衛させるのが最も確実であろう」



元就はそう呟きながら、自身の装束に通されていた飾り紐の端を引っ張り、そのまま抜き取った。
十分な長さのあるその赤い組紐を、鍵の頭に空いた穴へしゅるりと通す。



「貴様が持て」



今度こそ手鞠は驚きを口にした。
元就が今話していたのはとても重要そうな話なので真剣に聞いていたし、その内容も理解していたつもりだ。
それなのに、その一言が繋がるだけで頭が一瞬固まってしまった。



「ほう、いらぬか」

「あ!いる!凄くいる!絶対!」



最初からそう言え、と小言を挟まれながらも必死に鍵を受け取る。
元就が手を離すと、鍵の穴に通された赤い組紐が地面に触れそうな位置まで垂れた。
思わず両手で握りしめたその鍵は、元就の命の入れ物を司るにはあまりに頼りない細さだった。



「火急の折、若しくは我の身の危険を察する折はそれで蔵を開けよ」

「はい」

「……貴様はそれを如何する」



曖昧な問いに、鍵から視線を動かして顔を上げると、元就が真っ直ぐにこちらを見つめていた。




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