毛利元就 | ナノ


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恐らく日輪祭の準備にあたり、必要な道具や何がしかの祭具を求めて物置を漁る者がいたのだろう。
そこでもち米の存在を知り、紛れ込んだのだと勘違いをして飯炊き場へ持っていったと見ると道理が通る。



「無駄足を踏ませおって……手鞠、安芸のもち米で新しい供物を作れ。我が国以外の食材を供えるは日輪への背きよ」

「はい。あ、元就様、お願いがあって…」

「…何ぞ」

「この使わないお餅、食べていい?すっごく美味しかった…」

「…………」





――――――――……


「あっ、醤油がすごい合う…!」

「阿呆め。炙らずに海苔を巻くなど無知の所業よ」

「七輪取ってくる!」

「大根とおろし金ももってこい」

「はい、はーい!」



市右衛門と橋之助にはしばらく戻るなと言伝をし、手鞠が持ってきていた餡子や醤油を試してからは全く箸が止まらない。
焼き目をつければ香ばしく、甘味を添えると丸く包み込むこの餅はまるで無限の可能性を感じる。



「長宗我部は何でこんなすごいもち米を持ってたのかな」

「……陸奥国には質の良いもち米があると聞く。恐らく船で交易があるのだろう」

「陸奥国かあ…あそこはお米美味しいから…」



紅白合わせた平餅は三つずつ。
それも全て平らげようと言う時、ピンと何かを思い出した元就が自分の懐に手を差し入れた。
そこから取り出したのは、長宗我部から与えられた巻物。
ずらずらと続く土産品の中に、一つ、長らく気にかかっている品物があったのだ。
目を滑らせてその単語を追っていくと。



乾し鮑…一両

もち米…特製の品 二貫

織物…三仗



やはり間違いなかった。
わざわざ特製の品などと大仰な言葉で書き記すあたり、今自分達が食べている「この」もち米に違いない。
加えて、二貫あれば一月は困らない。



「…………」

「元就様、最後の一つ食べていい?」

「食べれば貴様の腹を割くぞ」

「過激。」



それでも自分の好物だと知っているから、手鞠はそれ以上異議を唱えない。
そう、これ以外の好物を自分は知らない。

それだけ他の食物に、食べるという行為に、意味も意義も見いだせていないのだ。
幼少の頃から食べ慣れていた餅だけが、どうにか心の端に引っかかるような形で思い出の味として残っている。
いつか、いつかの遠い昔に。
供えられた膳を、その料理と同じような冷ややかな温度で見据えるようになるよりもずっと昔には。



「おいしいね、元就様」



自分も誰かと、そんな風に話しながら食べたのだろうか。




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