毛利元就 | ナノ


▼ 




元就はたっぷり一刻は使って思考を巡らせていた。
こちらとしては顔も見たくない相手だというのに、次は協定を結びに来るとは長宗我部はどれだけ面の皮が厚いのか。



(此方がどれだけ掻き回されたか考える脳は無いのか?)



未だに憎らしい思いはあるが、襲撃そのものへの怒りは薄れてきている。
どちらかと言えば、その後に手鞠が食事と睡眠を取れなくなった事の忙しなさの方が大きい。
それでいて当の長宗我部はまるで憑き物が落ちたようなさっぱりとした顔でやって来るのだ。

このような手土産を持参して。



「……思い上がりも甚だしい」



渡された巻物には通行料として多くの品々が記されていた。
国が変われば価値のあるものも変わる。
安芸では高値がつくような名産を上手く選んであることがまた腹立たしい。

その中に気になる品々が無いわけではなかった。
しかし、国土に侵入させるほどの価値があるとは言えない。
そう見切りをつけ、さっさと頭の中からこの考えを追い出す事にした。
明日は日輪祭がある。
そろそろ供物の用意を始めなければ。

そう言い聞かせながら扉の内側にある大きなつまみを捻る。
内部で鍵の外れるガチリという音が、頭の中に大きく響いた。



安芸の浜辺を使わせれば、この入れ物が露呈するかもしれない。



結局、どれだけ大層な理由をつけたとしても、この理由に尽きるのだと分かっていた。
自分を仕舞い込んでいるこの小さな蔵が。
誰も入れず、どこにも逃げられないこの安住の地が。
自分のが露呈する事を恐れているのだ。
この蔵は周りの煩わしい物から自分を守る。
しかし、侵入し自分を暴こうとする物には無力であるのだ。

気づけば扉は自重でゆっくりと外側に開いていった。
開いてしまっては仕方が無いので、外に足を一歩踏み出す。
昼の眩しさに一瞬目を細めるも、さて、あの生き物はどこかと見渡したが。
海辺に手鞠の姿がない。
遠まわしにだが、遠くへ行くな、近くにいろと命じたはずだ。

眉をひそめて、その名を呼ぼうと口を開いた時。



「あ、元就様!」



と足元で叫ばれて僅かに体が跳ねた。
振り返れば、手鞠は今まで自分が篭っていた蔵の足元の砂を掘り返している。
完全に死角になる所で潮干狩りをするなとは確かに命じなかったが。

手鞠の周りには貝が小山に盛られたザルがいくつも置いてあった。



「元就様、なんかこの小さな穴に貝がいるみたいなんだけど、全然掘っても取れない」

「……穴に塩か海水を撒けば出てくる」

「……あ!本当だ!」



ちらりと見えた頭をつまみ出すと、棒のような形の貝が引っこ抜けた。



「取れたー!」



そう顔を光らせた手鞠に頷いたが、いや何を頷いているのだと我に返り、とりあえず輪刀で殴った。




prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -