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忘れもしない一昨日の昼。
元就が日輪へ祈るために手鞠を引き連れてやって来た海岸には、すでにこの男が立っていた。
相変わらずの豪快な笑い声を出しながら。
「よう毛利、この間は世話になったな!」
「手鞠」
「そりゃー」
「だぁから!」
もはやいつもの動作で手鞠の突進をかわした。
この駒の速さも慣れたもので、手のひらを手鞠に見せて「待て」をしながら、元就へ話す余裕があった。
「相変わらずだなあんたらは……」
「安芸を襲撃した輩が何用よ」
「おう、実はあんたの国に攻めた事で金が尽きてよ。しばらくは行商でもしながらここらを回ろうかと……おら手鞠!動くな!」
にじり寄る手鞠へ牽制しながら、海辺に停めた船を指差す。
そこには随分と荷が積まれていた。
「我を殺すとほざいておった輩が言うには虫が良すぎるな」
「なあに、ちょいとあんたらを野放しにしておくのも面白そうだと思ったんでな。手鞠も手鞠なりに、俺の力になりそうだ」
「……貴様、どこの言語を喋っておる」
「わかる必要なんざねェよ。兎に角、俺はあんたの周りの国に行商に行きてぇが、ここ以外に港がないんでな」
そこで、と言葉を区切り、一つの巻物を空中に放り投げた。
それは丁度元就の場所へ落ちてきたが、受け取るために手を出す事などさらさらせず、そのまま落ちて砂浜に刺さった。
「……取引だ。あんた好きだろう?」
「……田舎の鬼大将が出来る取引などたかが知れるわ」
「そう言うなって、損はさせねぇよ。ここを通らせてくれんなら、そこに書いてあるもんを定期的に送ってやるよ」
「用件はそれだけか」
「分かった分かった、今日はここまでだ。それ拾って読んどけよ」
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