毛利元就 | ナノ


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正午。
日輪が空の真上に位置する時を見計らい、御堂から海岸に出た。
この時間になると、手鞠も呼ばれるより先に砂浜で待っているようになった。
海岸の中心で、正面に昇る日輪を臨んで立つ自分の背後に座り込む。
元就の影がちょうど日除けになるのだ。
その影からはみ出さないように体を折りたたんで座り、砂浜に槍を突き立てて監視の姿勢に入った。

敵襲に備えるというよりも、部下が背後から元就へ無闇に声をかけないように監視するのが手鞠の役割だ。
だから背中合わせで良いのだ。
以前はもっと離れた場所から監視していたが、いつの間にか背後にいるようになった。

この形態も日常化してきたな、と思考の隙間で元就が思う。



日輪の光を浴びる時間は何物にも変え難い。
冷えきった顔とはよく言われるが、この光を浴びる度にあながち間違いではないのかもしれないと感じる。
日の光を浴びてようやく、この体には体温が生まれ、脈々と血の気が通うような。
どうにか自分の呼吸音を聞き取れるような。
そんな気さえする。

たっぷりと体に光を吸収する頃には若干日輪が傾くので、常に半刻はこうしているらしい。



「今日の日輪も素晴らしき御姿であった…」



そう息を吐きながら振り返ると、手鞠はいつものように丸まって眠っていた。
これの寝息は小さいので、眠っていることに気づくのは大抵日輪への祈りを捧げ終わった後だ。

踏みつけるか輪刀で殴るかどちらにするか決めかねていると、ごろりと手鞠が寝返りを打って顔をこちらに向ける。
幼子のような寝顔だ。
やや白いながら健康的な肌の色に、たっぷりとした髪。
砂浜で無防備に眠りこけるので、まつ毛には幾らか白砂が乗っている。
それでも手は槍から離れていないが。



(元就様、あの女の武人は何故屋根でしか眠らないのですか)

(我の知ったことか。癪ならば貴様が引きずりおろせ)

(それが低い所では寝たがらないんで…忍びや獣のようで気味が悪い…)



そう告げ口してきたあの者達は、何を言っているのかと思う。
こやつは何処でも寝るではないか、と。
しかし確かに、手鞠が屋根や木の上以外で眠るのは、この時間のこの場所だけだと分かってきた。
日輪へ祈りを捧げる時間の、自分の影の中でだけ。

奇妙な生き物だ。
こうまで人の形を損なわずに生まれついているのに、その端々にどこか隙間があって、精巧に作ってもらえなかった部分がある。
上手く噛み合わせてもらえなかった部品がある。
そのいびつさが、どこかから懐かしさを運んでくる。



そう考えているうちにいつの間にか手鞠が目を覚まし、またきゃあきゃあと騒ぎ出すので、殴り損ねた輪刀をしまっていつも舌打ちをするのだ。





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