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(…近頃安芸にのさばる郎党を崩しているのは貴様か)
(うん)
(どこの生まれだ)
(もうなくなっちゃった村)
(何故)
(………)
(何故このようなことをする)
十六か十七か、それよりももっと幼く笑うし、それよりももっと大人びてまばたく。
ふと困ったような、それでも嬉しげな笑みを見せた。
(初めて大好きなものが出来たんだけど、どうしたら良いのか分かんなくて)
(………)
(倒すのとかそういうのは結構、出来るんだけれど、守ったり大事にしたりするやり方が分かんない、から)
そう言ってぴくりとも動かない郎党達を、困ったように見る。
答え合わせを待っている子どものように自信なく、けれども相当な真剣さで。
(安芸が好きか)
(うん)
(ならば我の駒となるが良い。貴様を多少は有益に使ってやろう)
(駒?)
(そう、駒よ。安芸を守護し、安芸の安泰のために死に、我の指先に動かされるだけの駒よ)
目の前の存在はその言葉の意味を反芻させて、それでも尚、楽しげに笑って見せた。
(うん、なる)
「元就様、私は何のお仕事をする駒になればいいの」
「そうそう簡単に役所を与えられると思うか。貴様のような使い勝手の悪い駒など、行き先を探すだけで一苦労よ」
「そっか」
「………」
てっくら、ずるずる、てっくら、ずるずる。
軽い足取りの後、重たい体を引きずる音が自分の背後から響いてくる。
あの御堂は波の音こそ聞こえない造りであるものの、他の物音を遮らない仕組みになっている。
何の音もなく複数名をのすことが、もしもこれに可能だと言うのなら。
「…しばらくは近辺の警護と、われの小間使いでもしておれ」
「それをしていればいいの?」
「ああ」
もっと時間をかけるべきだ。
どこぞの隊へやることはいつでも出来る。
てっくら、ずるずる、遠くならず近くもならず、きちんと自分の後ろをついてくる。
「元就様は、どうして私を駒にしてくれたの?」
「……使えるものは使う、ただそれだけのことよ」
(ほう、良いのか。駒となれば最早貴様に意思は無いぞ)
(元就様は安芸を守ってくれるから)
(……ならばもしも)
何ということはない、ただの皮肉のつもりだった。
(…もしも我より知略、計略、安芸と毛利家への真情、全て勝る者がいたとしたなら、貴様はどうする)
(どうも、しないよ。私ちゃんとするよ)
そして何ということはない、ただ向こうも変わらず返した。
(ちゃんと、元就様を殺すよ)
答え合わせは完璧だった。
ただそれだけのことだ。
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