毛利元就 | ナノ


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「…橋之助様、もしや毛利軍が近づいている事が一揆勢に知れてしまったのでは」

「俺もそう思う。恐らく、何かの折に背後から村へ近づいていた事に気づかれたんだろう。山中への逃亡を図ったんだ」

「それで忍びを山へ放ったのですな…行き先に敵がいないかどうかを知るために」



橋之助は爪をかんだ。
本来自分達の役割は、一揆勢に正面からぶつかり動揺させる事だ。
慌てて後ろへ逃げた所を、後方から迫っていた援軍と挟み込む。
つまりこちらには「最初の切り込み」と「最後の討ち取り」を出来る兵はいても、その最中の苛烈な戦闘を戦い抜く兵力はない。

このまま待っていては、山を登ってくる一揆と正面衝突してしまう。
かといって退却すれば、本丸である安芸へかなり一揆勢を近づけてしまうだろう。



「ここは命を捨て、正面から切り込むべきでは?」

「いや、向こうは自分達が追われている事に気づいている。そんな者達の正面に立っても、押し切られるだけだ。かくなる上は……」



唾を飲み込み、顔を上げた。
そこにはただ座っている手鞠がいた。
立ち上がりも歩き回りもしない、ただ薄緑の小袖をぱたぱたと翻して、橋之助が決断するのを待っていた手鞠が。



「……手鞠、俺達でもう一度同じ作戦をするしかない」

「同じの?」

「ああ。元就様がお前を入れた理由を、きっと理解できるだろう」



「爆発し続けろ」




一揆勢が山を登り始め、山頂近くまで来た時にそれは始まった。
山頂周辺の道は周りに高い木が多く、道も細いため隊列が横に広がるのは二列が限界だ。
その道に一揆勢が全員入ったのを合図に、一斉に後ろから攻撃を始める。
背後を取られた事で、序盤はほとんど無抵抗で一揆勢の後方はやられていった。

しかし徐々に向こうも態勢を立て直し、背後から攻撃していた橋之助達へ反撃をする後衛と、先の広い道へ行くために前へ進み出す前衛に別れる。
しかし2列になって走り出した道の先には。






「こんにちは。あと、さよなら」






何の未来も待っていない。








安芸は今日も気持ちの良い快晴であった。
いつも通り日輪へ祈りを捧げていた元就にも、それは感じられる。
昼はとうに過ぎ、まもなく沈み始めるだろう。



「……予定ではまもなく山を越えるか。あれが全ての口を封じてしまわぬと良いが」



一揆の鎮圧には全ての真実を洗いざらい吐く人間が必要だ。
どんな言葉で一揆に誘われ、指導され、戦わせたか。
それを吐かせなければ今回の騒動は終わらない。

それくらい今回の一揆は規模が違った。
移動速度も、効率も何もかも、ただの農民上がりがやれる事ではなかった。



「……中国の近隣諸国に吹き込まれたか?否、現実的ではないな。この手の込みよう、もしや……」

「毛利様!」



部下の一人が勢いよく駆け込んできた。
日輪と向き合っている間は決して入るなと言ってあったのだが、今日は見張りの手鞠が外に出ていた事を思い出して舌打ちをする。



「……何ぞ、端的に申せ」

「今、安芸の国の境に、敵兵あり!その数凡そ五千!至急兵のご采配を!」

「……何だと?」

「旗印は……豊臣です!」



つい先ほど脳裏に過ぎった名前を叫ぶものだから、心のどこかで憎々しくも笑える自分がいた。
やりかねない、と思った所だ。

竹中半兵衛という男であれば。



「……至急兵を門に集めよ、水軍も配置しておけ」

「は!」





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