毛利元就 | ナノ


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それでも馬に乗っている方がやはり気楽なのか、橋之助の声色は軽かった。
手鞠には全く分からない気持ちだけれども。

山を越える事は全く重労働ではない。
普段から走り回っているのに歩く事を強要されて、力が有り余っているくらいだ。
とは言えこの山を下った先に一揆の軍勢がいるのだから、目立った行動も慎んだ。
そうしてほぼ登頂にさしかかった頃。



「……ん?」



手鞠の耳がピクリと動いた。
木々の変な音がする。
風で揺られてぶつかり合う枝の音とは違う。
別の重みで一度しなり、重みが離れてまた枝が弾かれる、間隔的な音。

まるで誰かが枝から枝を飛び移ってこちらへ向かってきているような。



「橋之助、誰か来てるよ」

「…何だと?」



普段から手鞠が近くをうろちょろしているので、この人間の過敏さは知っていた。
橋之助はすぐに辺りを見渡し、一人一人身を隠すよう手で合図を送る。
馬は廃墟と化した小屋の内側に潜ませた。
橋之助は巨木の虚に隠れ、手鞠は落ち葉を集めてその中に潜った。

潜ってしまった手鞠には辺りを伺うことが出来ない。
それでも、一人の忍びらしき人間が自分の頭上の木に止まり、しばらくしてからまた別の木へ移って行った気配は感じられた。
それから更にしばらくして、橋之助がこの落ち葉をかき分けに来た。



「…もう行った?」

「ああ、来た方向へ帰っていった。恐らく山の麓にいる一揆勢が雇った忍びだろう。自分達の行先に敵がいないか探っていたんだ」



よいしょ、と頭についた落ち葉を振り払いながら身を起こした。
他の所に隠れていた兵達も集まってきている、皆無事だったらしい。



「探られるだろうと思ってはいたが、予想よりかなり早いな。まだ町も見えていないぞ」

「なんで山の中まで見るんだろ?」

「……橋之助様!あれを!」



岩陰から山の下の様子を伺っていた兵が切迫した声を上げた。
ご覧下さい、と遥か下方を指さす。
橋之助が同じく岩陰に駆け寄って覗き込むと、あるはずの無い姿がそこにあった。

緑と茶色で埋め尽くされた山の麓。
そこに、ゆっくりと動く無数の黒い影。



「……一揆勢だ」



橋之助の呟きに、ひょいと手鞠も顔を出す。
遥か遠くに小さな集落も見えた。
本来であれば一揆勢はまだそこに留まっているはずだ。



「このままではあいつらも山に登ってくる、鉢合わせるぞ。後方部隊は何をしている?」

「……あ、村みたいなところの後ろにいるよ」



手鞠が目を細めると、遠い集落の中にちらほらと人影が見える。
その人影は薄緑の鎧や衣服を身にまとっており、見間違いでなければ毛利の旗印も持っていた。




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