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「おお手鞠、準備は出来たか?」
「え?」
門をくぐると、すでに橋之助率いる小隊が準備を終えて待機していた。
しばらく前から待っていたと見える、馬達は脚を折りたたんで馬役に鬣を梳いてもらいながらのんびりとしていた。
「何で橋之助がいるの?」
「いや、主様がな。恐らくお前は俺達を連れていくから準備をしておけと」
「えー……」
実質選べないのと同じ事だ。
確かに橋之助の小隊を連れていこうかと考えてはいたが。
それでも今更変えるわけにも行かず、よろしくお願いしまーすと頭を下げた。
わずか十数人の兵達はゆっくりと進んだ。
馬に乗った橋之助を先頭に、その後ろには荷物を詰んだ馬を引く手鞠、その間にバラバラと兵達が紛れた。
「いやにゆっくりだね」
「此度は俸禄を届ける馬役に成りすまして行くよう命じられたからな。誰から見ても一揆を討伐に行く形をしていては、向こうにも勘ぐられる」
だからお前なのだろう、と橋之助は続けた。
少ない人数で爆発的な被害を出すには、お前は欠かせないと。
「褒めてもなんも出ないよ」
「褒めとらんぞ」
久しぶりに走らずに向かう仕事なので、つらつらと今回の成り立ちを橋之助と話した。
一揆が生まれた場所からの移動速度は目を見張るものがあるとは言え、まだ山二つ分は先なのだ。
道のりは長いと言える。
一つの山に一晩、二つ目の山にもう一晩かかると見ていいだろう。
「私速いよ、走ってもいいよ?」
「確かにお前は早いが、目立ちすぎる。馬と並んで走る女子があるか」
そう言われてしまえば仕方がない。
それに、人数に対して馬は二頭のみだ。
体には馴染まないとしても、仕方なくゆったりと歩いていった。
一方その頃、安芸の海を1人見つめている元就へ。
「元就様、橋之助達が一の山を越えたとの報せがありました」
「ふむ…定石通りよ。先に行かせた後方部隊はどうだ」
「問題なく件の一揆の背後へ回り込んでいます」
「ならば良い。勢いがあるとは言え、所詮は農民の浅知恵よ。毛利に楯突いた者の有様を示す程度には役立つがな」
「では予定通り、明日の晩に粛清致します」
「嗚呼」
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